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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作短編ファンタジー】ラダールの花薬師 1

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みなさま、こんにちは。ゆきうさぎです。

昨日まで、現代物の短編小説を上げていたので、今日からはちょっとテイストを変えてファンタジーをお送りします♪
系統としては、以前に上げた短編「ただ、君に逢いたい」みたいなお話しでしょうか↓。

ゆきうさぎはガーデニングも大好きなので、なにかお花関係ネタの創作を以前から書きたくて。
お花屋さんと薬屋さんを兼務してるような職業で、ひとつ何かファンタジーが書けないかな~と思って、書いてみました。

お楽しみ頂けましたら嬉しいです☆
それではどうぞ~^^

ラダールの花薬師 1

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 ラダールには腕の良い花薬師(かやくし)がいると噂に聞いたので来てみたんだ、とその客は上機嫌で言った。

二十二才、栗色の髪に緑の双眸、背高で勝ち気そうなオズマンド国近衛騎士。

おそらくそうとう富裕な貴族の出――執事らしき従者の老人を連れて入ってきた青年は、花薬店を見回すなり逗留を即決した。

「え? 俺がこの花屋兼薬屋兼茶屋兼宿屋を選んだ理由? そりゃ、一目見て絶対あんたに治療してほしいと思ったからさ」

 そう言ってナユタは悪びれた様子もなく笑う。まったくこれだからお金持ちは――こちらの都合などお構いなしなんだから。

今は春。花屋としては忙しい。

けれど正直、久々に入ったご指名の仕事は家計に大変ありがたく――チハルは結局、この青年の依頼を受けることにしたのだった。

「てゆーか、隣国の独身貴族がわざわざ、こんな地方の庶民宿に寄宿するとか。うすうすあんただって感づいてるっしょ。あ、いちおう言葉で確認しときたかったんだ?」

 逗留して三日目の昼下がり。ナユタは他に客がいないのをいいことに、臆面もなく店のカウンターに両手をつく。

「まぁ俺は初めから、そういう下心ありでこの店、選んでるんで。そこんとこ、よろしく」

 そういうってつまり……惚れたとか見初めたとか、そういうこと。

 嘘でしょ、と思わず口に出してしまうところだった。

冗談じゃない。八つも年上の、おまけに未亡人で子持ち女の自分の、なにに惹かれたのだろう。この若者は。

 しかも私は――とチハルは戸口の脇にかかった姿見を見やる。

引っ詰めた黒髪にそばかすの浮いた化粧っ気のない顔、筋肉質で中性的な筋張った二の腕。その小柄な身体にまとうのは、いつもの無骨な職人用の前合わせに長袴と長前掛けだ。

 ええと? いくら見ても私、この人の隣にいて釣り合いそうな、華麗で高貴な令嬢には見えない。百歩譲って、通りすがりの男が振り向くような美貌の若い娘ですらない。

いくら童顔とは言え、いい年をして貫禄とて感じられない、ただの見習い風情といったところなんですけど。

 昔からお世辞にも女らしいとは言えないし、今でもつとめて地味に目立たないよう生きているのに。

一体自分のなにを見て下心など抱いたのか。皆目、見当もつかない。

「まあ、その話は置いといて」

チハルはため息をつくと肩をすくめた。

「ナユタさん、あなたの胸痛のことなんだけれど――」

「ナユタでいいよ。俺、年下だし。で俺もあんたのこと、チハルって呼んでいい?」

「いいけど……」

なんなのだろう、この気安さは。親戚の甥っ子みたい。

「じゃ、ナユタ。あなたの病って、オズマンドの高名な医師も匙を投げたんですって? 今も痛むの?」

「……あれ、なんでそれ知ってんの」

「なんでって。あなたが家に追い返した執事のじいやさんから、あらかじめ色々聞いといたのよ。だってもし花薬師の管轄外だったら、そもそもあなた、うちに長居する意味ないし」

「えええ、そんなぁ、つれないこと言わないでよ、チハルー」

 臆面もなくナユタは口をとがらせる。つれないとか。そういう問題じゃないでしょうが。

「あのね。だいたい大金頂いておきながら、半端な仕事なんて私、する気ないから」

 目の前にいるのは貴人の装いの見目麗しい成人男子なのに、どうにもチハルにはナユタが息子の友達くらいにしか見えなかった。

「心の臓が、時折、焼けるように熱くて痛くなる。……どうも聞いたところ、それって私たちが呼ぶところの『星の病』じゃないかと」

「へえ、星の病。なにそれ、初めて聞いた」

「あなた以前、イベリス山に登ったことは? ひょっとして山頂から、不知火(しらぬい)詣でをしたんじゃない?」

 チハルが意を決して切り出すと、はたしてナユタは頷いた。

「ある。子供の頃、一度だけ」

 やっぱりか、と窓のむこうに目をやった。

外は初夏のような陽気の昼下がりで白い光に包まれている。十才になる息子のフウは学校へ行っていた。まだ当分、帰ってこないだろう。

 ――ナユタも、あの内乱の犠牲者なんだ。

 ぽつりと寂寥にも似た想いが胸をよぎった。

「……まあ、白蔓花(ヤッシ)のお茶を入れるから。そこの椅子に座って、ゆっくり話を聞かせて」

 たしかにこれは花薬師の仕事かもしれない。

午前中に花の仕入れも終わったし、余計な客が来ないように、もう閉店の看板を出してしまおうか。

チハルはてきぱきと動きながらも、ナユタから目を離さなかった。

 青年は頬をかしげ、手持ち無沙汰に窓の外を眺めている。

そのむこうにそびえ立つのは白い峰を頂くイベリス山――カルザ国とオズマンド国の境にまたがる名高き霊山だった。
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その2に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/kayakushi-2

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