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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作短編ファンタジー】ラダールの花薬師 2

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みなさん、こんにちは。
創作好きな、ゆきうさぎです☆
昨日から、自作短編小説『ラダールの花薬師』を記事にしてます。
6回連作予定で、今日は2回目。

『ラダールには腕の良い花薬師(かやくし)がいると噂に聞いたので来てみたんだ、とその客は上機嫌で言った。オズマンド国近衛騎士ナユタと花薬師チハルの、失った過去をめぐる不思議な因縁とは――。』

甘くて切ないファンタジーです。

読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪

ちなみにゆきうさぎ、10代のころから創作を始めまして、途中ブランクありましたが、もう10年以上は小説を書いてます。
懸賞小説にもときどき応募したり。予選に入ったり。そんなレベル。

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ラダールの花薬師 2

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「……おそらく十年前のゴタゴタの頃でしょ、あなたが不知火詣でをしたのって」

 脇机に二人分の茶器を置き、籐椅子の背を引いて対面に陣取ると、チハルは上目遣いにナユタを見やった。

「オズマンドの王様がいきなり身罷られて、三年くらいだったかしら? 玉座を争うひどい政変だったわよね。人が大勢アダージ街道を抜けて、カルザ国側に逃れてきて。私、まだ花薬師として駆け出しの頃で、ちょうどあの山麓を巡ってたから、よく覚えてるのよ」

 話を振ってやると、ナユタは遠い目をした。

「そうそう。あの頃のオズマンド人は、藁にもすがりたい想いのやつらばっかりだった。俺の親父も都に帰りたくて、『霊山から見えるという青海の火に参拝すれば、なんでも願いが叶う』なんて言い伝えに、つい飛びついちまった馬鹿の一人でさ」

「ナユタ。なんでもいいから、その時のことで覚えていること、話してくれないかな」

 軽い音を立て、白磁の器に清涼な香りの茶を注ぐ。

心を落ちつかせ、集中力を高める花茶――もう花薬師の仕事は始まっている。

「うーん。それがじつは俺、どうも記憶が曖昧でさ。行った事実は覚えてるのに、その時の感情や動機がまったく白紙っていうかー」

「そう」

「……俺って、やっぱ少しおかしいのかな」

 ナユタは頼りなげにチハルを見た。

「ううん。そうじゃないと思う。不知火詣でをしたら、そうなる人が多いの」

 この世には医学だけでは解決できない病が存在する。かといって、なら疫(えやみ)と呼ばれる妖魔に取り憑かれたにちがいない、祈祷師さえ呼べば万事解決だ、というのも安直すぎるとチハルは思う。

 花薬師は医師のように病んだ部分を取り除いて治すのではなく、たとえば風雨にさらされて曲がった木に添え木をあてるような……病んだものは受け入れた上での対処をする。

 病は病とし、なおまっすぐ生命を全うする術(すべ)に特化した、薬花のみでの治療。

だから花薬師は職業上は草木を扱う職人扱いだ。

 なのに正式な花薬師になるのはなかなか難しく、修行は完全な徒弟制だった。

一人前になるには野山を最低でも三年は流離(さすら)い、組合主催の修了試験に合格しなければならない。

「ナユタ。あなたはたぶん不知火――鬼火に願掛けして、受け入れられた人なんだと思う。海に浮かんだ鬼火の正体は、光世から堕ちてきた神霊だって説、あなた信じられる?」

「霊?! まさか幽霊とか亡霊と同じ類いの?!」

 ナユタは気味悪そうに胸に手を当てた。チハルは注意深く丁寧に説明する。

星の病っていうのは、病人の身体の中に願いを叶えるために入った神霊がいてね、その霊が放つ熱が原因なの――。

花薬師はありのままの真実を、まず患者に受け入れさせる。

特別なことはせず地味に話を聞き、身体に溜まった黒霧を吐き出させる。

治るか治らないかは本人次第だ。

「それじゃ、俺の記憶が曖昧なのも?」

「うん。たぶん霊がまだ、あなたの身体に憑依しちゃってるからだと」

 うっわ冗談じゃない、とナユタは毒づいた。

「その霊を取り除く方法は。どうやるんだ」

「なにか忘れたことを、思い出せばいいのよ」

「なるほど……そうだな、俺があの山に登ったのは早春で、それから……」

ナユタは頭をがしがし掻くと、

「あーダメ。いつもこうなんだ、うう気持ち悪い。なあチハル、あんたも同じ頃、あの霊山に登ってたんだろ。その時の様子を話してくれれば、俺も少しは記憶が戻るんじゃないか?」

 そうね、とチハルはため息をついた。

どうやらナユタの治療はけっこう時間がかかりそうだった。

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 花屋兼茶屋の仕事の休憩中に、二人でお茶を飲みながら昔語りをする。

なにも知らない常連客は、花薬師見習いでも入ったのかと決まって聞いてきた。ナユタがいつのまにか前掛けまで締めて、店の中で働いていたからだ。

 だって他にやることないし、草木は好きなほうなんだ。ナユタはチハルの息子のフウともすっかり打ち解け、学校帰りのいい遊び相手になってやっていた。

「――で? 今日はなんの話?」

 催促され、チハルは首を傾げつつまた回想を始める。

ナユタはこちらの話ばかり聞きたがった。そういう症状の患者もいたから、この人もそうなのかもしれない。

 十年前――。

花薬師組合からの通達で、チハルは白蔓花(ヤッシ)の採集をしに山へ入っていた。

薬花の採集は当番制だ。悩み多き人々が山頂めざすほど白蔓花(ヤッシ)の需要も増える一方、当時は摘んでも摘んでも、まったく供給が追いつかなかった。

「そうね……じゃ、今日はとっておきを」

 雪解け水のせいで、ぬかるんだ山道……鬱蒼とした針葉樹の森を抜け、雪と緑がまだらになった草原を登り――あの日、私は妖魔に襲われた一行に出会ったのだ。
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その3に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/kayakushi-3

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