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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作短編ファンタジー】ラダールの花薬師 5

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みなさん、こんにちは。
創作が大好きな、ゆきうさぎと申します☆
昨日から、自作短編小説『ラダールの花薬師』を記事にしてます。
6回連作予定で、今日は5回目。

『ラダールには腕の良い花薬師(かやくし)がいると噂に聞いたので来てみたんだ、とその客は上機嫌で言った。オズマンド国近衛騎士ナユタと花薬師チハルの、失った過去をめぐる不思議な因縁とは――。』

甘くて切ないファンタジーです。

読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪

ちなみにゆきうさぎ、10代のころから創作を始めまして、途中ブランクありましたが、もう10年以上は小説を書いてます。
懸賞小説にもときどき応募したり。予選に入ったり。そんなレベル。 

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ラダールの花薬師 5

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  それから三日、チハルは高熱にうなされた。

介抱してくれたのはおもにナユタだったけれど、母さん、うわごとでずっと父さんを呼んでたよ、と教えてくれたのは涙目で笑ったフウだった。

母さんって、ちゃんと父さんを愛していたんだね――。

 ようやく熱の引いた昼下がり、店の奥で花を仕分けていた青年に、チハルは近づき深く頭を下げる。

顔を合わせられない。だってこれじゃ、どちらが客だか店主だかわからない。

「ごめん。まさかあなたの言うように、私があの時、鬼火に願かけしてたなんて……」

「別に」つむじの上でため息をつく気配があった。「あんた記憶喪失してもいいくらい、旦那のことがめちゃくちゃ好きだったんだろ」

 そう。あれほど弊害が出ると知っていたのに。

それでも願わずにはいられなかったのだ。

 封じられていた想いがまた、こみあげてきて、こらえようとしても涙が床に次々落ちた。

 好き。好きだった。大好きだった。

「ど……うして……っ」

 あの人を思いきってラダールに戻った? とんでもない。

私はトキマサから離れられなくて、結局オズマンドのあの人の家までついて行ったんだ。そこで夫婦になり、夏まで短い時を過ごして――。

でも不知火に願った効力はそこで時間切れだった。

「私はある朝、夫への気持ちもなにもかもを忘れて……ラダールに残した仕事が心配でたまらなくなって、一人、戻ってきてしまった」

 なのにあの人は何も言わず、私を送り出したのだ。

トキマサは死期がもう近いと知っていた。だから引き止めなかった。

でも私は……なんてことをしでかしてしまったんだろう、両手で口を押さえる。

恐ろしさでまた猛烈に吐き気がこみ上げて、視界が白くなった。

「気に病むな。旦那はすべて知ってた。あんたが星の病に犯されて記憶を無くすだろうことも、別れる日にはたぶん妊娠してたことも」

 チハルは思わず顔を上げた。ナユタは深い目をしてチハルだけを見つめている。

「どうして? あなたは何を知ってるの? いったい、何をしにここに来たの……?!」

「俺はあんたに、仕返ししにきたんだ」

「し、仕返しって……」

 突然、青年がまったく見知らぬ人間に見えてくる。

ああ、ちがう。ナユタが息子みたいだなんて、どうして思ったんだろう。

この人は星の病になんて初めからかかっていない。だってこの人は――もっとずっと強い人だ。

 ナユタにはなにか別の思惑があって、私がラダールにいるのをつきとめ、周到に全部計算づくで、この屋根の下に入ってきたんだ。

そう確信した瞬間、背筋がぞわりと冷える。

「ナユタ……あなた、本当は何者なの……?」

「俺は俺だよ」返ってきた声は低かった。

「あんたの病のことは、俺がトキマサに伝えたんだ」

いらだちを押し殺すような一拍の間。

「あいつは全部わかった上で、あんたを受け入れたんだから――」

 きっと幸せだったはずだよ、とナユタは言う。こちらを睨みすえながら、どこか泣き出しそうな表情で。

「……まだ、思い出さない?」

 唐突に、壊れ物を扱うように青年の手がチハルの頬をすくった。

長いふしばった指が涙をぬぐい、髪を撫でる。

「俺、あんたを軽く見下ろせるほどには、背を伸ばしてきたんだけどな……」

 あ、とチハルは小さく声を上げた。

 ――花束を作るの、手伝ってくれてありがとう。たくさんあるから大変だったでしょ。でももういいよ、休んでて。

 ――子供扱いするな。だいたい女のなりして変装してるが、こう見えても俺は男だぞ!

 遠い日のやりとりが、急に鮮明になって脳裏に蘇ってくる。

 ――え。あなた、男の子? 嘘ーっ。

 ――あのなぁ。親父が戦火を案じて今は祖母家に身を寄せているが、俺だって普通にしてればけっこういい男って、よく言われるんだぞ。なのにチハルはトキマサ師のことばっか気にしやがってー、くそ。くそくそっ。

 ――あらやだ。ごめんね。でもあの人、私の許婚だし。ナユタは私よか背もちっちゃいから、私、てっきり女の子だとばかり。

「……チハル。あんたって、昔から本当にひどい女だよな」

 肩をすくめてナユタが呟く。

「俺は、誰にも打ち明けていない心のうちまで全部さらけ出すよう誘導されて、初めから優しい女花薬師に首ったけだったのに」
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その6に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/kayakushi-6

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