Home, happy home

楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【短編恋愛ファンタジー】竜に告ぐ 2

【スポンサーリンク】

 みなさんこんにちは。ゆきうさぎです。

前回から、自作短編小説『竜に告ぐ』を記事にしてます。

6回連作予定で、今日は2回目。

『北大陸のサリアード国、その王都リュウゼリアは古来より水の加護厚き聖地だった。十七になったアルダが医療院でようやく見習い仕事を覚えたころ、国の礼拝師を務める大貴族トッサ家の離れで出会ったのは、家長の一人息子、リュカだった――。』

しばらくぶりで読み返したら、アルダがいわゆるリケジョ系。さばっと理性的で、自分で書いていて言うのもなんですが、けっこう好感女子(笑)

読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪

竜に告ぐ 2

リュカ・オン・スン・トッサ。
御年十四になる惣領は、それ以降も頻繁に離れを訪れた。

「……なあ、本当に本当に大丈夫なのか、リュカ? 私の部屋なんかに入り浸って」

心配で問いかけると、まだ幼い顔立ちを頬に残した少年はふん、と横をむいた。

「知るか。俺は母のお飾り人形じゃない」

茶饅頭を口に入れたままでぶすっとこちらを睨むと、

「それに、この離れはもともと、アルダより先に俺が使っていたんだっ」

どうやら亡霊の正体はこの少年らしかった。

リュカの母は家柄の良い貴族の出で当主の正妻だが、二度目の妻でもあった。

母は亡くなった最初の妻と当主の間にできた二人の兄に家督を譲る気はなく、我が子リュカに権を継がせるつもりだった。

つまり――アルダの離れは英才教育の一時避難所であったわけだ。

「それは……すまなかった」

「もう、いい。アルダのせいじゃない」

俺が成人した暁には絶対に母の言いなりにはならない、と口をとがらすのを見て、思わず吹き出しそうになった。

アルダの目にリュカは、ただの反抗期まっただ中の少年に写った。

「それよりアルダはなぜ、いつも男の格好をして、男のように話すんだ?」

問われてアルダは自分の着古した医官服を眺め、合わせの帯に留めた前掛けを撫でると苦笑した。

「さあ。私は男手一つで育てられたから。それにただの田舎者だ。リュカの母上のようにはふるまえないよ」

「そうか。その琥珀の瞳に杏色の髪……サリアードでは珍しいから、もっと着飾れば人目を惹きそうなのに。もったいない」

こちらがどきりとするような内容を、少年らしい無邪気さでさらりと言ってのけると、

「そういえば父上の見立てでは今夏は長雨らしいぞ。サンの花が早く散ってしまいそうだ――」

はじめは単に医療士見習いが物珍しかったのだろう。

だがいつしかリュカは気安く世間話をしたり、自由に本を読んだり、昼寝したりするために、離れを訪れるようになった。

(きっとこの子にとって、本館はそうとう息苦しいんだろうな)

アルダとて気苦労の多い医療院で一日すごしたあと、独りぼっちの離れに気の許せる者がいてくれるのはありがたかったし――まるで弟ができたような気もして嬉しかった。

リュカの喜ぶ顔見たさに、市場の飯屋に走ったことも一度や二度ではない。

f:id:yukiusagi-home:20200226225636j:plain

「――俺、アルダと一緒に市に行きたい」

それはサリアードが短い秋から長い冬へと移り変わろうとする最中の出来事だった。

「いいだろ、前から平氏(テジ)の生活には興味があったんだ。な、つれて行ってくれよ」

リュカは北大陸に多い深藍の髪に群青の瞳をしており、年のわりに大人びた態度をとる少年だった。
しかし母譲りの端正で繊細な顔立ちに似合わず、一度主張し始めると頑なに意志を押し通すところがあるのを思い知ったのはこの時だ。

「そう言われてもなあ。屋敷の誰かに見られたら――リュカが困らないか?」

「大丈夫。平氏(テジ)の服を着てしまえば、もう誰も俺をトッサ家の御曹司とは思わないさ」

しかたがないと根負けして下街に連れ出すと、はたして馴染みの八百屋から、年下の恋人でもできたかとからかわれた。

「アルダ、あの八百屋、なかなか見どころがあるじゃないか。俺を子供扱いしなかった!」

なぜかリュカはえらく誇らし気だった。

「……あの親父、おまえの顔が美しいと、ずいぶん褒めていたな。役者になればいい、

舞台に上がったらかならず一等だと、その一点張りだ。まったく」

「そっちかよ、失敬な。だいたい、顔だけじゃないだろう?」

そう言われてよくみれば、長いまつげに整った鼻筋と頬の輪郭、よく鍛錬された身体は若い牡鹿のような肉付きで、たしかにまだ背こそ低いものの、リュカは街中の彫像と比べても、さして見劣りしない造作をしている。

「ふうん。案外、人は見た目で他人を判断するものなんだな――」

市場の端にある噴水のへりに腰かけて、八百屋の親父がくれた甘酸っぱいネイトの実を食べながら首をひねると、

「アルダは、人を見た目で判断しなさすぎだろ。俺は正直、初対面ですこし自信を喪失した口だ。なにせこれでも小さい頃から周りに目一杯、ちやほやされてきたからな」

リュカ・オン・スン・トッサは冷静で利発で一筋縄じゃいかない、将来有望株の美少年で通っているんだぞ、と自慢なのだか、よくわからない台詞を口にする。

「はあ……それは、なんというか……すまないことをした」

アルダからすると年若なリュカはどう見ても、ただの甘え上手で素直な弟なのだが。

「だいたい今更、そんな常識に気づいたのか? 人は初対面で八割がた、相手の評価を決定するらしいぞ。そう、父上が言っていた」

すでに実を食べ終えたリュカは、袖口で口をぬぐうと偉そうに胸を張った。

「リュカは、父を尊敬しているんだな」

なんと返したらよいかわからずそう言うと、少年はきらりと笑顔を返してくる。

「うん。礼拝師としての技量は随一だと思っている」

「へえ……」

「俺が思うに『良い礼拝師』とは、目に見える、うわべだけの世界をありがたがらない人を言う」

リュカはアルダに真剣なまなざしをむけた。

「この国には心や身体を病んで、藁にもすがる思いの人が大勢集まってくるだろう?」

「うん」

「だけど当然ながら、そのすべてが助かるわけじゃない」

「うん」

「アルダの志す医療士ってのは、もっぱら身体の病を癒す者だ。それはそれで尊いと思ってる。でも人間は血肉だけじゃなく、魂も同じように大事だ。ちがうか?」

「ああ……そのとおりだな」

アルダは思わず頬をかいた。リュカがまるで修練を積んだ大人のような物言いをするので、心の奥がこそばゆくなったのだ。

「俺はよく思うんだ。『大切なものほど、目には見えない』と。だから、この世の本質を見抜き、迷える魂を助けられるようになりたい……」

それが俺の目指す礼拝師だ、とリュカはまっすぐに言い切った。

「俺はただ漫然と道ができていたから後を継ぐんじゃなくて、いつか命の深淵に触れるような、すぐれた礼拝師になりたいんだ――」


なるほどな、とアルダは微笑する。
これまでもけっしてリュカを、ただの裕福な貴族の坊ちゃんと思っていたわけではない。それでもどこかこの心のうちに、上流社会の人間にはおしなべて権勢に執着するたちがあるものだという、うがった見方がありはしなかったか。

そうだ。
直氏(スヴェン)だとか平氏(テジ)だとか。
自分はこういう者でありたいという夢を思い描くのに、身分など関係なかった。

その時脳裏に浮かんだのは、深い山里で一人黙々と薬を煎じる父の姿だった。

肉親が一心に働く姿を間近で見られる子供は幸運だな、と思う。
アルダもあの寡黙な口から多くを教えられたわけではないが、医療士として生きる心構えは、父の背中から教わった気がする。

「――おや、医療士見習いのアルダじゃないか」

と、突然目の前に長い影がさした。

その3に続く>>【短編恋愛ファンタジー】竜に告ぐ 3 - Home, happy home

 

※よかったら↓もご覧下さい☆

【すでに完結した短編小説はこちら↓】
 

 【詩エッセイはこちら↓】