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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作恋愛ファンタジー】小夜恋歌 1

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こんにちは。ゆきうさぎです。

ここのところ、1ヶ月超でSFノベルを記事にしてきました↓。

バトルやら恋愛やら、てんこもりで疾走させて頂きました。お付き合い下さった読者様、大変ありがとうございました。


さて今日からは12月予告どおり、近未来世界とは一転し、恋愛ファンタジーを6回連続でお送りします。
おそらくこれが、年内最後の物語となろうかと思います。

ちなみに、ゆきうさぎはSFよりファンタジーのが、もともと得意分野です♪
系統としては、以前に上げた短編「ただ、君に逢いたい」「ラダールの花薬師」「山賊王とバーリヤッドの死神」みたいなお話。


お楽しみ頂けましたら嬉しいです。
それではどうぞ~^^

小夜恋歌(さよこいうた) 1

 切り立った崖に連なる玉蜀黍(とうもろこし)の段々畑、その間の細道を息せききってアリアは走る。ところどころ石で舗装された道は大通りに近づくにつれて平坦に、きちんと整備されていく。
今日は雲ひとつない快晴で、初夏の強い日ざしが白い頬に沁みた。

――ええ、お嬢様、まちがいねえですよ。おら、はっきりとこの目で見ましたから。あれはたしかに戦役に出てった男たちでした。

(やっと帰ってきたんだわ、二人が)

市場へ買い物に出ていた下男から待ちに待った報告を受けては、午後の礼拝をすっぽかしてでも月の神殿を飛び出さずにいられなかった。

隣国ティカとの戦(いくさ)が激化し、劣勢だったサウラが領内の若者たちに召集をかけたのが去年の夏。
あれからもう、一年たつ。

鮮やかな巫女見習いの服を羊毛のマントで覆い隠し、郷(さと)はずれの石門まで一気にかけ降りたアリアは、そこに見知った青年を見つけて思わず破顔した。

「ハル!」

高い声で呼ばれた青年が、金茶の短髪を揺らして振り返った。
一段と逞しくなった体躯(たいく)に革鎧をまとい、腰に長刀、編み上げ長靴。
アリアは弾む息を整えて、立ちつくすハルを見上げた。

「お帰りなさい!」

「アリア……」

「元気そうでよかった! ねえ、リュゼは?」

 とたん、時が止まったようにこちらを凝視していた深緑色の瞳が、わずかにゆがむ。

「ハル?」

アリアは青年の後ろにあるべき姿を探したが、そこに目当ての夜闇のような瞳と黒髪の若者を見出すことはできなかった。

「……リュゼは、一緒に帰らなかったの?」

  きょとんとして首をかしげると、ハルは意を決したようにアリアの肩に両手を置いた。

「よく聞け、アリア」

「?」

「――リュゼは死んだ」

「……え?」

にわかには何を言われているのか、わからない。

「十日前だ。俺たちはセパ高地の渓谷にいたんだ。退路はなく、食料も底をつき、味方の援軍は来なかった。全員、死を覚悟した」

「ハル、なにを、言っているの……」

「その時、あいつが言ったんだ。皆で死ぬ必要はない、自分が討って出ると」

アリアは笑った。それから、首を横に振った。

「そんなはずない、だってリュゼは――」

「いいから聞け! 奴は『眼』を使ったんだ」

「嘘でしょ……」

アリアは呆然とハルを見る。ハルはただアリアを見返す。
昔から、誰よりよく見知った幼なじみの顔だ。偽りなど言っていないことはすぐにわかる。

「やだ……」

リュゼの双眸に宿る秘密を知っていたのは、彼の一族以外ではたぶん、アリアとハルだけ。――邪視(じゃし)。
それは睨んだ対象に死をもたらす呪いのまなざしだった。

「あいつは……リュゼは本懐を全うしたんだ。あいつの一撃で、形勢は一気に逆転したんだ――」

ハルは憑りつかれたように話し続けた。
リュゼの一撃は、敵の要(かなめ)の将たちを一瞬で死に追いやったこと。
悶絶して息絶える奇怪な死を目にして敵兵は戦意を喪失し、戦局は完全に味方優勢になったこと。

「サウラ王が言ったんだ。力尽きて斃れたリュゼを、わが軍の英雄だと」

王は、リュゼの遺体を王墓の谷に埋葬するとまで約束してくれた、とハルは言った。

「アリア。これは一兵士に対しては、異例の計らいで……」

「やだぁ! やめてよ!」

アリアは思わず耳を両手でふさいで叫んでいた。

「そんなの、ハルの口から聞きたくないっ」

「すまない、アリア。俺がついていながら、こんなことになっちまって――」

アリアは、その言葉にはっと顔を上げた。
どんなときも快活でまっすぐだったハルが、今は唇をゆがませ、苦しそうにアリアだけを見つめている。
その瞳に強い光があるのを見、思わず息を飲んだ。

「どうして、ハル……もしかして」

青年はアリアから両手を外すと、ぎゅっと眉を寄せて横をむく。
それが答えだった。
まちがいない、この人は知っていたのだ。
一年前、アリアがリュゼと恋仲になっていたのを。

「もしかして郷(さと)を離れる前から……?」

膝がわななく。顔から血の気が引き、アリアは口元を抑えた。瞳から涙があふれだした。

――ねえリュゼ、ハル。私たち、これからもずっと一緒にいられるわよね。なにがあったって、私は二人を本当の兄弟みたいに大切に思ってるから。だからお願い、いつまでも変わらず、今のままの関係でいてね? 約束よ。

震える唇から嗚咽が漏れた。
ごめんなさい、と何度も呟く。

そう……私はリュゼと二人して、ハルを裏切った。自分から持ちかけた約束をやぶり、このかけがえのない、まっさらな太陽の心を持つ友を置き去りに、二人だけで夜闇に紛れて甘い蜜の味を味わった。

だから。これは天罰なのかもしれない。
もう、どんなに願っても、祈っても。
あのかけがえのない幼馴染(リュゼ)のはにかんだような笑顔は、二度とは帰ってこない。


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 アリア、リュゼ、ハルの三人は、まるで羊駱駝(ビクーニャ)の子のように仲良く育った。
サウラ国の南はずれ、切り立った絶壁の郷(さと)ウリシュが三人の故郷だった。

裕福な商人の娘アリアに、郷一番の鍛冶師の息子リュゼ、そして郷長(さとおさ)の跡継ぎのハル。
まるで畑ちがいの親を持つ三人だったが、母同士の仲がすこぶるよく、幼いころからなにかというと顔をつきあわす機会は多くて。

三人が神殿裏の泉へ連れ立って遊びにいくのを、郷の者たちは失笑しつつ、穏やかなまなざしでよく見送ったものだ。そう、一年と少し前の、あの春の日も――。
 
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その2に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/sayokoi-2

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