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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作恋愛ファンタジー】小夜恋歌 2

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こんにちは。ゆきうさぎです。
昨日から、自作短編小説『小夜恋歌』を記事にしてます。
6回連作予定で、今日は2回目。

『裕福な商人の娘アリアに、郷(さと)一番の鍛冶師の息子リュゼ、郷長(さとおさ)の跡継ぎのハル。まるで羊駱駝(ビクーニャ)の子のように仲良く育った三人は、母国サウラと隣国ティカの戦いに巻きこまれ、運命を翻弄されていく――。』

三人の関係が切ないファンタジー。なお、今回のサウラ国はイメージが中南米なので挿絵も中南米系のを入れてみました。

読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪

小夜恋歌(さよこいうた) 2

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「……で? おまえはなんて答えたんだ」

唐黍(とうきび)の粉をねって焼いたパンをかじりながら、ハルはリュゼを見やった。
ようやく春を迎えた泉を渡る風はまだ少し冷たくひんやりとし、森の木々は新芽で覆われている。

「別に。ただ、俺も夏の徴兵には参加したい――と言っただけだ」

「なにぃ?! それだけで、そのアザかよ」

リュゼは答えず、横をむいた。
端正な左頬が紫色に痛々しく変色している。

「親父さんはどうしてそこまで、おまえがサウラ国の務めを果たすのを嫌がるんだろうな?!」

この国では男子は十八で成人する。兵となって祖国を守るのは、大人として当然の義務だと、ハルもリュゼも思っている。自分たちだってそうして今まで、顔も知らぬこの国の男達に守られて育ってきたのだから。

「……きっとこの眼のせいだろう」

 リュゼはため息をつき、揺れる春の野花を摘み取ると、眼の前にかかげた。
瞳の奥で光彩が一瞬だけ赤く光る。
すると白い花は茎を折り、葉を散らし、見る間に茶色くなって萎(しな)びていく。

「うっわ。なんだか前よりその眼、強力になってねーか?!」

「ああ。まあな。……なあハル、おまえは本当にこの力、見てて気味が悪いとは思わないのか?」

リュゼのこの問いかけは、幼い頃からの決まり文句のようなものだったから、ハルもまたいつもと同じ言葉を返した。

「は? いーや、全然。天は二物も三物も一人に与えちまうんだなー、すげえムカつくとは思うけどな」

「そうか……」

リュゼは軽く笑って目を伏せた。

「俺の一族はもともと、ナザル国の巫覡(ふげき)だ。昔はこの邪視(じゃし)で王より権勢を誇っていたらしいが、結局は力のせいで国を追われたそうだ。せっかくサウラに籍をおいて巷間(こうかん)にまぎれたのに、今更この力で一族の再興など必要ない、と……まあ、父は言ってる」

「――ねえ、いつまでそうやって、しかつめらしく難しい話を続けるわけ?」

不服そうな声が振ってきたので、顔を上げたリュゼは目を見開く。
アリアが甘酸っぱい実を、リュゼの口の中に放りこんできたからだ。

「あそこに、チュイの実がたくさんなってたの。おいしい?」

少女は得意げに泉の左手を指さすと、

「はい、ハルにもあげる。あーんして」

二人の間に押し入るように割って入るや、もう一人の口にも実を押しこむ。

「おっ、うめえ」ハルは素直に目を輝かせた。

「でしょ?」

悪戯が成功したと言わんばかりに、アリアは笑う。

「けどなぁ、どこに行ったんだかと思っていたら木登りしてたのかよ、その格好で」

ハルは頬を指でかいた。アリアはひだのある長スカートのはしを腰の太帯にたくし入れ、袋状になったところにたくさん実を入れていた。
白い両足は腿のあたりまであらわになっており、刺繍入りの靴も泥だらけだ。

「うー、アリア」

「なあに?」

「俺たちも一応、もう十八なんだし、男の前でそういうあられもない姿はどうかと……」

とたん、アリアはぷうと頬を膨らませる。

「だって、じゃあ、どうしたらよかったのよっ。二人ともここにきてから剣の手合わせばっかりして、私をずーっと無視してたくせに!」

 春になったら、また昔みたいに外に出かけよう。
そう約束して、せっかく久しぶりに三人で遊びにきたのに。
アリアは今日の散策をけっこう心待ちにしていたのだ。

最近、アリアが巫女見習いとして通っている月神殿でも、暗い戦局の話でもちきりだった。どこどこで戦があって、何人死んだとか、誰が武功を上げたとか。

最初は隣国ティカとの国境沿いで起きていた小競り合いは、冬のはじめごろからだんだんとサウラ国内で起きるようになっていた。
ようするに祖国が負け続けていて、ティカに攻めこまれている図らしい。

だけどこのウリシュはサウラ国でも辺境の高地にあって、ティカにも遠い。
食べ物だって豊富にあるし、人々の暮らしは平穏そのもので。

だから、アリアにはどうしても実感が湧かない。
このまま、もし祖国が滅びることになったとしても。
サウラ国がなくなって困るのは、国王やそれに連なる権力者たちだけなんじゃないだろうか。巫女様たちはティカを悪く言うけれど、隣国に適わないなら、さっさと服従すればいいだけの話で。

正直、アリアの父が税を納める先がサウラ王になるかティカ王か――そのちがいなんて、そんなにこだわるところでもない気がする。

なのに、どうやらリュゼとハルにとってはサウラを守ることは他人事じゃなく、人生の一大事みたいだった。
ここに来たとたん、青年たちはアリアには理解できない政(まつりごと)の話をし始めて――退屈したアリアがあちこち見て回っているうちに、今度は剣術の稽古なぞし始めたりして。

これじゃ、なんのために神殿から休みをもらったのかわからない。
腰に手を当て、そう抗議すると、

「別に、アリアを無視していたわけじゃないさ」

とりなすようにリュゼが言った。

「せっかくアリアがとってきてくれたんだ、ありがたく頂くよ。……ただ」

「ただ?」

「その素足は、スカートにしまったほうがいい。春風は思いのほか冷えるぞ。ああ、あとで足がつったと泣く顔が目に浮かぶようだ」

「なっ、泣いたりなんかしないわよぅ」

「まぁ本当にそうなったら、俺がおぶって帰ってやるけどな」

 片目をつぶってみせるリュゼ。
アリアはふんと鼻を鳴らし、スカートを元に戻した。

郷(さと)の娘たちはみんな誤解している、と思う。
たしかにリュゼは誰もが認める美丈夫だし、ハルだっていつのまにか精悍な武人になって、アリアだって目を奪われそうになる時がない……わけでもない。

(だけどリュゼは小さいころ、なにかできないたびに悔し泣きしてた泣き虫だし、ハルはいまでも猪突猛進、単純お馬鹿な性格なのに)

アリアにとって二人はいつだって、小さいころの少年のままだった。
いつのまにやら今じゃ一番、背が低いのは自分なのだけれど。

「なんだよ、アリア。俺の顔に、なにかついてるか?」

ハルが羊駱駝みたいに口をもぐもぐさせながら聞いてくる。

「別にー。ハルのこと素敵っていう見習い仲間がいたから、一体どこらへんが素敵なのかなぁって思って見てただけ」

「なにっ、それ誰だ?」

ハルはにわかにそわそわし始める。

「巫女見習いってことは、それなりに可愛い子だろ? 美人なら引き合わせてくれよ」

「うん。可愛いけど。誰かは教えなーい」

「アリア、てめっ、ひでー」

「私に女の子を紹介してほしかったら、もっと二人とも成長してからにしてよね。じゃないと間に入った私が困るでしょう」

「なるほど?」リュゼが思わせぶりに笑った。「じゃ、おまえに俺たちはどう見えているのか、ぜひこの機会にご教示頂きたいな」

「え? えっと、うーん、そうね」

アリアはしばらく二人をためつすがめつしてから胸を張った。

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その3に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/sayokoi-3

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