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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作恋愛ファンタジー】小夜恋歌 4

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こんにちは。ゆきうさぎです。
自作短編小説『小夜恋歌』を記事にしてます。
6回連作予定で、今日は4回目。

『裕福な商人の娘アリアに、郷(さと)一番の鍛冶師の息子リュゼ、郷長(さとおさ)の跡継ぎのハル。まるで羊駱駝(ビクーニャ)の子のように仲良く育った三人は、母国サウラと隣国ティカの戦いに巻きこまれ、運命を翻弄されていく――。』

三人の関係が切ないファンタジー。

読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪

小夜恋歌(さよこいうた) 4

一体、なんなんだ。
俺は今……なにを見て、聞いている?

「アリア、わかってくれ。俺はたしかにウリシュで生まれたが、ナザル国の流民でもある」

どうやって宿舎の監視をくぐり抜けて入りこんだか、リュゼは扉際に立っていた。すぐ側には小さな炎をともす灯り取りがあり、その横には簡素な机と寝台が置かれている。

「かつてナザルが危機に瀕した時、サウラ国は損得を顧みずに援助の手をさし伸べてくれた。俺はサウラに定着したナザルの代表として、受けた恩義には報いなければならない。まだ父だけは反対しているが、一族ははじめから、この話に賛成しているんだ」

「やだ!」

「俺はもう子供じゃない。今回は行くべきだと思ってる」

辛抱強く言葉を重ねるリュゼに対し、アリアは頑なに頭を抱えた。

「知らない! 聞きたくない!」

「アリア……頼むから」

こらえきれなくなったように、リュゼの両手がアリアを引き寄せた。
そのまま頬を傾けると、いやいやと首を振っている相手に影を落とし、有無を言わさず口づける。びくりとアリアの肩がはねた。

「……っ、リュゼ、あ、あの」

リュゼは一度、唇をはずすと愛おしげにアリアをのぞきこみ、頬を撫でた。それから手を伸ばして部屋の灯りを取り、吹き消すと、まろい顎に指をかけてそっと仰向かせる。

「ずっと好きだった……俺はおまえを……おまえだけを見てきた――」

細い身体を壊れ物を扱うように抱きしめ、前よりも深く唇を重ねていく。

「……愛している」

かたくなにリュゼから逃れようとしていたアリアの身体から、しだいに力が抜ける。
やがて両手がリュゼの背にこわごわと回されるのを見、 もうそれ以上とどまることができず、ハルは顔を歪めてその場を立ち去った。

――とんだ大馬鹿野郎だ。俺は。

大木の影に入ると口を引き結び、白く握りしめた拳を開いた。
大切に持っていた組紐を、根方(ねかた)に放り捨てる。

知っている。リュゼも、昔からアリアを好いていた。
どういうわけか、自分たちはまるで示し合わせたようにこの街に生まれ、巡り会い、同じ娘に想いを寄せたのだ。

けれど二人のどちらかをアリアが選んだ時、それまでの自分たちの関係も崩れ去るのだと――リュゼだってわかっていた、はずだ。

だからアリアに関してだけは……ハルはリュゼと競うつもりはなかった。

アリアが昔のままの関係を望むなら、それもちょうど良いじゃないか。
自分もリュゼも、そのうち別な娘と結ばれて、アリアは親の決めた相手とでも添い遂げればいい。
アリアがまったく見ず知らずの男のものになるなら、俺もリュゼも、かえっていさぎよく諦めがつくかもしれない。

そんなふうに、自分の恋心に蓋をしてきたのに。
まさか、あんなふうにリュゼが裏で自分を出し抜いていようとは夢にも思わなかった。

(リュゼ。てめえは俺たちの、不可侵を犯した……)

深い夜のような友の瞳が胸に浮かんだ。
リュゼのあの目。頭の良いあいつがなにを見て、なにを思っているのか、昔から自分には読めたためしがない。

リュゼが抜け駆けしてアリアを独り占めしようとしたことより、むしろ自分になにも話がなかった事実が許せなくて、猛烈に腹が立った。

あいつ。なぜ一言アリアに告白する前に、そうすると言ってくれなかった。
たしかに俺たちの間には、なんの口約束もなかった。この件に関しちゃ、一度も腹を割って話したこともない。だけど。

まさか……邪魔されるとでも思ったのだろうか。
この俺が、そんな無粋な真似をするわけないだろうが。
くそっ。もしかしてリュゼは俺を、その程度のやつだと思っていたのかもしれない――。

ハルは奥歯をかみしめた。

昔から俺は容姿も胆力も、頭の出来だってリュゼにはかなわなかった。
それでも、あいつだけには負けたくなかった。

いつもリュゼに好敵手(ライバル)と認められたかった。後ろから追いかけるんじゃなく隣に並び立っていたかったから、人一倍努力して……胸を張って無二の友だと自負できるようになったのに。

なのに、いまだにあの眼は茫洋と俺を素通りして、どこか別な所を見ていやがる。

(畜生……!)

哀しみと怒りがないまぜになって胸を焼く。
とんだ笑い話じゃないか。
あいつにとって俺なんて、しょせんその程度の存在だったんだ。

 この夜以来、ハルはリュゼを避けるようになった。
今リュゼの傍に居続けたら、余計なことを口走りそうで苦しかったからだ。

俺は。
アリアもリュゼも絶対に、責めはしない。
そんな卑屈な奴になりはしない。

アリアがリュゼを選んだなら、それでいいんだ。
リュゼは頭のいいやつだし、腕もたつ。
きっとアリアを幸せにするだろう。

これからは邪魔をしない程度の距離を保って、二人の幸せを見守っていく。それが友として、俺にできる最良で唯一の選択じゃないか――。

(それも、生きて帰ってこられたらの話だがな)

サウラ国とティカ国は昔から犬猿の仲で、小競り合いは数知れず、今回の戦のように数年に渡って殺戮が続いた過去も何度かあった。

今はこのウリシュのような高地の属領にまで、追加兵役が拡大しているのだ。
おそらくサウラ国の旗色がそうとう良くないのだろう。

リュゼがアリアを取ったのなら、俺はなおさら、あいつらが幸せに暮らせる場所を守ってやらなければ。
そのために、闘う。闘って、かならず最後まで生き残る。

同じ革鎧を身にまとった若者たちの異様な高揚の中、ハルの心はしだいに戦士として研ぎ澄まされていった。



この時は、思いもしなかったのだ。
まさかリュゼに庇われて、自分だけが生き残ろうとは――。

戦場でおのれの見た光景が、ハルには今でも信じられない。
振り返れば、そこにはこの世とは思えぬ地獄があった。
累々と転がる、幾百ともしれない敵の屍。

天にむかって手を伸ばし、苦悶の表情を浮かべながら絶命している者もあれば、両手両足が奇っ怪な形にへし折れている者もある。身体の半分が焼けただれたようになっている死体もあれば、胸を押さえて全身から水分が抜けてひからびたようになった者もいた。

呪いだ、と絶句していた味方の誰かが金切り声で叫んだ。
あの死を見ろ、なんと不吉な。あれこそまさに悪魔の力だ。
いや、ちがう、天罰だ。奴らは神の怒りに触れたのだ。

浮き足立つ味方をかきわけながら前に出ると、全身血まみれになって泥みたいに崩れゆくリュゼと一瞬、目が合った。
それが命を削って邪視を使い続け、ついに朽ち果てた友の最期だった――。

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「……やっぱり、ここにいた」

耳に馴染んだ声にはっと顔をあげると、アリアが羊毛のマントを頭にふわり、落としてきた。

「夜の水辺は夏だって、けっこう肌寒いんだからね、ハル」

夏宵の泉には小さな光が溢れている。うっそうと茂る高い木々のむこうに、神殿の尖塔だけが黒々として見えていた。

青白い月に、夜空で瞬く星々。
泉の上で舞踏を踊る山蛍(やまぼたる)たち。
 どの光も太陽ほどの鮮烈さはないが、日の光にはない、心に沁みる美しさがある。

――そういえば、この秘された幻想的な風景を最初に見つけて、俺たちに知らせたのも……リュゼだった。

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その5に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/sayokoi-5

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