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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 14

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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。

着想は10代の終わり頃。元原稿が2014年作。
気に入ってるストーリーなのでぜひこの機会にお披露目したい!と思ったのですが、この5年の間、ワタクシの腕も多少は成長していたようで、「これって……このまま載せられない~」と毎日修正中。
楽しんで記事にしていきますので、よろしくお付き合い下さい。

『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。

天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、少しづつ相手を意識するようになっていく。黄龍は余暇に、天音をISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への小旅行に誘うのだが――?』

読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪
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宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 6-2(13)

そいつは横幅の広いがっちりした体格だった。精悍で面長な顔に一重の目で、綿シャツに黒ズボンを履いている。

その衣服からは寺社で焚くような甘い香の匂いがした。胸元には金の十字架が光っているが、こいつは生粋の華僑だからキリスト教徒ではないはずだ。

「長が待ってるぜ。奥の階段を降りるとエレベーターがある。右のを使いな」

「了解」

通りすぎざま、おいファンロン持っていけ、と四角い箱が放られる。

「煙草だ。やる。地球の正規品だ」

「悪いな浩宇(ハオユー)」

「……あんた、もうあの時の後遺症は大丈夫なのか」

思わず足が止まった。

「ああ。問題ない。だから俺が選ばれたんだろう」

ポケットにすばやく煙草をしまいながら、男をふりかえると、奴もまだこちらを見ていた。

「浩宇、昔一緒に闘ったよしみで聞くが、最近ISSOMの流通ルートがどうも滞っていて怪しい。おまえ、なにか知ってるか」

「へえ、あいかわらず冴えてるな。あんたの読みは大方あたってるぜ」

奴らが動いてる、と男は言った。

「ISSOMとサザンの中間地に、財閥が出資した新しい衛星建設計画の話があったろ?」

「ああ」

「どうやらあれが一年後、本格的に始動するらしい。そうなると当然ながら、この宙域の管理体制も強化される」

そうか、だから。そうなる前のタイミングを狙って。

「おまえもこの祭りに参加するのか、浩宇」

「ああ。俺は傭兵だし、しょせん黑社會育ち、影でしか生きられない性分だ。金になるなら、なんでもやるさ。それに俺はあんたと同じで『梟(フクロウ)』には借りがあるしな」

おい黄龍、まさかあの時の屈辱を忘れたんじゃねえだろうな、と釘を刺すように浩宇は言った。ひどく剣呑な目つきだった。

「俺はまた、そのうちあんたの下につくぜ。よろしくな」

「なに」

「すでに長が手はずを整えている」

「しかし浩宇、おまえは奴らに顔が割れてる。事が起きたら、真っ先に狙われるのはおまえだろうが――」

そんなもん、関係ねえよ、と浩宇は強い調子で毒づく。

「あんたの任務も全部知ってる、邪魔するつもりはない。俺はただ、あいつらに一泡吹かせてやりたい。それだけだ」

「……おまえもつくづく難儀な奴だな」

「それは、お互い様だろうが」

そう言って浩宇は笑う。

――なあ、ファンロン。俺は知ってる。あんただってしょせん、同じ穴の狢(むじな)じゃないか。

奴の心の声が聞こえたような気がして、自然と足取りが重くなった。

 



待ち合わせ時間を少しすぎてから、ようやく先ほどの場所に戻ると、迷子の子犬のような目をした天音がご大層な荷物に埋まって突っ立っていた。

「黄龍~~、よかったー、帰ってきてくれてありがとうっ、こんなところで置いてきぼりにされたら、どうしようかと思っちゃった」

見る間に目尻に透明な粒が盛り上がるので、慌てて天音の肩を叩く。

「悪かったな、荷物持ってやるよ。貸せ」

しかし、なにを買いこんだんだ、この女は。

大きな紙袋が六つも。しかもかなり重い。地面に置かれたそれを拾い上げようとすると、

「わぁっ、それ大事に持って! 袋が破けたら大変!」

「おまっ、なんだよこれ」

「え? 日本米二十キロ」

「にじゅっ」

耳を疑う。

「だって、ISSOMには置いてないんだもん。それに業務用のがお買い得だって、店の人が」

「……」

「あのねっ、日本米ってお値段お高いけど、粘りけがあって甘くって、東南アジアのお米と全然ちがうんだよっ」

こちらの顔色を読んだか、必死な目をして天音は主張を始めた。

いやいや。たかだか米の値段くらいで目くじらなんて立てないぞ俺は。しかし別な袋からはえらく異様な匂いもするが。

「あ、それは豆腐と納豆と豆乳で。そっちの袋は味噌と長ネギと山椒の粉でね……」

「おい全部、日本食かよっ」

服はどうした。宝飾品は。

「だって。どうしても黄龍に日本の『おうちごはん』を食べさせたかったんだもの」

その返答に脱力する。意味がわからない。

「おまえ。オリビエにはイタリアンとか肉料理を食わせてただろうが、普通に」

「そうだよ? だってオリビエ、お箸使えないもん。そういうの作っちゃったら困るでしょ。だけど黄龍はお箸の文化圏の人だから、今は料理の制約がなくなって、すごく嬉しい」

こっちは今まさに文句を言おうとしていたのに、そう笑顔で返されたら黙るしかない。くそ。

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15に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/sora-15

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