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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 15

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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。

着想は10代の終わり頃。元原稿が2014年作。
これをこのブログ用に加筆修正している間に、元原稿の1.5倍くらいの量になってしまいました 汗
おそらく今日が、ちょうどこのストーリーの半分、真ん中です。
ここから先はだんだん話が佳境に入りますので、今までとは流れが変わっていくかな~(ってあんまりネタバレするとつまらないので、これ以上は差し控えさせて頂きます 笑)。
楽しんで記事にしていきますので、よろしくお付き合い下さい。

『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。

天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、少しづつ相手を意識するようになっていく。黄龍は余暇に、天音をISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への小旅行に誘うのだが――?』

読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪
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宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 6-3(15)

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しかたなく、こっちの比較的軽い袋の中味は卵の真空パックじゃないか、と眉をしかめて天音を見やると、

「あ、それ。その卵ね、ちゃんと生食できる卵だって店員さんが言うから。『卵かけ納豆ごはん』、美味しいよ?」

「天音おまえ、この俺に卵を生で食わせようってのかっ」

「うん。え、嫌?」

冗談じゃない。世界広しと言えど、鶏卵を生食するのは日本人くらいなんじゃないか。

しかし日本人が炊いた米に生卵と醤油をぶっかけて食うって話は本当だったのか。

「はあ……」

だめだ。やっぱりこの天然フワフワ女を街に一人で放り出すんじゃなかった。

額に手をやりたかったが、クソ重い荷物のせいでそれもままならない。

その後、別な店に少し寄り道をし、ようよう船着き場まで辿りつき、すべての買い物を船の後部に入れて嬉しそうな天音を座席に座らせたら、どっと疲れが襲ってきた。

そういえばよくオリビエが女の買い物につきあうのは骨だとか言ってたが、これは――たしかに一理ある。

まったく、とんだ道草になってしまった。

しかも一寸先は闇だったのだと気づいた時にはもう、遅かった。

「黄龍、あれ、なに……?」

「なにやってんだよ、早く動け!」

こともあろうに、ようやくついたエリュシオンのゲートで大型の貨物船が座礁していた。どうやら順番待ちをしているうち、誘導灯と接触して衛星の側壁につっこんでしまったらしい。

小型機で脇を通りぬけるにはギリギリの距離しかない。

慌てて管制塔と通信を取ると、機体を捨てて先に人だけ衛星に入れという指示が返ってきた。

「私、宇宙空間に出なくちゃいけないの?」

 天音の顔は緊張でこわばっている。

「俺の言うとおりにするんだ。今から準備してハッチを開ける。先に出て空港の整備員から命綱を受け取れ。あとは俺がやる」

「でも黄龍、私、怖い……」

「深呼吸しろ。大丈夫、よくあることだ。いいか。絶対に俺の手を離すなよ」

本当は座礁なんてめったにある話じゃない。

だが最近なぜか、似たような事故が各地の衛星で頻発していた。

奥歯をかみしめる。――これもおそらく、奴らの仕業だ。

さきほどの寄り道に時間を食ったせいで、燃料も酸素も予備がほとんどつきかけていた。

舌打ちしたい気持ちで、気づかれないよう酸素を天音の宇宙服に多めに移した。当然、自分の空気は薄くなるわけだがやむを得ない。

「行け、天音!」

小型機を出、単体で無重力遊泳する。

万が一、空港側の回収機に乗り移れなかったら宇宙を彷徨うはめになるだろう。

無論、救助艇はくるだろうだろうが、酸素がなくなれば死ぬ可能性もある。

扉を開け、注意深く決まった手順で天音の体を回収機の太い命綱につないだ。

――こいつだけは、危ない目に合わせられない。



「……黄龍、大丈夫?! 青い顔をしてる」

その声に、はっ、と我に返ってあたりを見回した。

気づけばもう、予約したホテルの部屋の前に立っていた。

天音はいかにも余暇中ですというような花柄とストライプのワンピース姿で、床に置いた旅行鞄を持ち上げたところだ。

そうか、もうここはエリュシオンの内部か、と自分のおかれた状況を分析する。

それにしてもISSOMの制服姿とちがって、こうやっておしゃれをした天音は、なんというかいつもより女らしいというか、誰の目にも触れさせたくないくらい可憐だなと思ってから、背筋が総毛立った。

ちょっと待て。
俺は天音の、この姿を見るのは初めてじゃないはずだぞ。

――わ~~、黄龍、どうしても後ろが外れない、助けてお願い、これ、脱がして!

宇宙服を上手く扱えずにあたふたする天音の脱衣を手伝ってやったのは、たしかサザン・アステロイド入所時で。

俺はその時初めて、宇宙服の下に天音が結構めかしこんだ装いをしていたのを目にし、ひそかに感動したはずじゃなかったか。

「天音……、おまえさっきエリュシオンに入った時、どうやって宇宙服を脱いだ?」

さりげなく問う声が緊張でかすれる。

俺のこの手も指も、宇宙服を着た天音の背中を触った時のしなやかな感触を、まだはっきり覚えている。だがこの記憶は――。

「あ、えっと、空港の女の人に手伝ってもらったの、やっぱり一人じゃ上手くできなくて。黄龍はその時まだ、ゲートの外にいたでしょ?」

その答えに内心、奈落に突き落とされた気分になった。

やっぱりだ。サザンでの記憶が一部、エリュシオン入所の際の記憶と入り混じっている。

だめだ、空港からホテルまで乗ったはずの送迎シャトルの形状も、もうほとんど思い出せない。

宇宙船からここまでの記憶があやうく飛びかかっているのだ。それを補填しようとして、脳が似たような過去の記憶で、なんとかつじつま合わせをしようとしている。

しかもまるで夢遊病にでもかかったかのように、五感もひどく散漫になっている。

このうつつとも夢とも判然としない、深く悪酔いしたような状態には、以前にも身に覚えがあった。胸内に冷たいものが湧く。

――あんた、もうあの時の後遺症は大丈夫なのか。

知るか、畜生。

思い通りに動かない指で無理矢理、自室のロックを解除した。自動扉が開く。

「少し、疲れたみたいだ。今、何時だ?」

腕時計を見ればいいだろう、と天音は言わなかった。

「エリュシオンの時間で、午後三時よ」

「そうか、じゃ……夕方になったら、起こしてくれ」

どさりと寝台に体を横たえた。

わかっている。

今この身体は明らかに低酸素症を発症している。

頭がしめつけられるように痛いし、視野も狭い。

やはり先ほどこの衛星の回収機に収容される間に、宇宙服の酸素が切れかけたのだろう。

だが、問題はもっと別なところにあった。


16に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/sora-16

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