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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 16

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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。

着想は10代の終わり頃。元原稿が2014年作。
これをこのブログ用に加筆修正している間に、元原稿の1.5倍くらいの量になってしまいました 汗
ちょっと今日明日明後日くらいは、作者としてはこのストーリー中で一番、胃の痛くなる部分にさしかかりますが。。。
がんばって記事にしていきますので、よろしくお付き合い下さい。

『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。

天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、少しづつ相手を意識するようになっていく。黄龍は余暇に、天音をISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への小旅行に誘うのだが――?』

読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪
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宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 6-4(16)

「黄龍、でも」

身体がこういう状態にある時はあの症状が出てきやすい。しかし天音には、厄介な持病のことは知られたくなかった。

こいつは情が深い。事情を知れば右往左往して、胸をつぶさんばかりに心配するに決まってる。

「とにかく今は休みたいんだ。ひとりにしてくれよ、頼むから」

みっともないことこの上なかったが致し方ない。両目の上に腕を乗せた。

体がだるい。鈍る意識が一気に泥の中に沈んでいく。

引きずりこまれる。

地獄のような奈落の底へ。

(いや、だ)

死臭と怨嗟の渦巻く闇――その奥でなにかが、悪意をこめてこちらを見つめている。

(そこへはまだ、行きたくない)

誰か、誰でもいい、俺を起こしてくれ。後生だから、一刻も早くこの闇を断ち切って、俺を光ある場所に引き上げてくれ!

――結局その夕、天音は部屋に現れなかった。

よく眠っているようだったから起こさなかったのだと翌朝、隣の部屋をノックした時に天音は白状した。

フレアスカートに麻のセーターを着た天音は見慣れた白衣姿の時より少しだけ大人びて見えた。

ごめんねと屈託なく笑う横顔にどきりとする。

思わず背筋が寒くなるほどの後ろめたさを感じたのは、前夜に見た夢のせいだ。

現実と錯覚するほど生々しい夢は――大概が人を撃つ瞬間の夢だ――時折見る。

だが昨日のが現実でなくて、本当に良かった。

(こともあろうに俺は……天音を)

汚したのだから。夢のなかで。

今でも妙に鮮明に覚えている。ねばりのある暗い泥沼でぐらつき、逃れようともがいていると、誰かのたおやかな指がためらいがちに何度となく額にふれた。

藁にもすがる思いでつかんで引き寄せてみれば――それはよく見知った、どんなに望んでもけっして届かない光の中にいる女で。

――天音。頼む、俺を救ってくれ。

その時その天女のような相手が、最悪のタイミングであのセリフを口走ったのだ。

――黄龍、好きよ、と。

刹那、凶暴な衝動に突き動かされるようにして組み敷いていた。

あらがう悲鳴を唇で塞ぎ、相手が抵抗しなくなるまで、何度も何度も深い接吻をくりかえす。

ふざけるな。なにも知らないくせして。

自制し続けてきた想いがふつふつと腹の奥から沸き上がる。

教えてやろうか、その無垢な体に。俺に気安く好きなんて言ったらどうなるのか。

首筋にあたる天音の吐息が痛いくらい熱くて。

もう限界だ。我慢できない。後先なんて考えられない、ただ無性に天音を抱きたい。

壊れるくらい強く抱きしめて、息が止まるほど深く想いを刻みつけて、永遠に自分を忘れないようにしてしまいたい。

そして俺は息を詰め、清涼感のある前開きワンピースの襟元に指をかけたのだ――。




「天音は昨日あのあと、どうしてたんだ?」

「ん? ええと……」

天音は一瞬だけいぶかしむようにこちらを見、それからふわっと笑った。

「ルームサービスで夕食取って、お風呂に入ってすぐ寝ちゃった」

「そうか。ごめんな、夕飯、外に連れていけなくて」

(最低だな、俺は)

本当はこうして何食わぬ顔で話している今でも、昨夜の夢の中でしたみたいに、やめてと懇願されるくらい天音を抱きしめたくて、もう一度あの唇に口づけたくてたまらないくせに。

(本当に……夢か?)

あの焼きつくような感覚も記憶も、天音と交わしたすべてがまぼろしだったのかと思うと、もはやこの世にはよりどころとなるものがなにもないような、足元からなにかが崩れるような、言いようのないむなしさだけがひたひたとこみ上げてくる。

たまらなくなって息を詰めた。

嘘、嘘、なにもかも嘘だらけだ。

「そんなこと。気にしないで、具合が悪かったんだもん。ね?」

天音はいつものおっとりした口調でそう言うと、また春風のように微笑んだ。

(俺は……天音の横に立つ資格はない)

それでも、と崩れそうになる心を必死にこらえた。

初めて、本気で、人を愛している。

その気持ちにだけは偽りはない。

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17に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/sora-17

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