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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 24

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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。

着想は10代の終わり頃。元原稿が2014年作。
今日からの9章は昨日がーっと書き下ろした章になります。←え、マジでこのタイミングで?勘弁してよっ。いきなり天から降ってきた(汗)物語は、このへんから不穏な気配全開で、いよいよ佳境に入ります~。しかし途中で大量に書き足したせいで、ただいま絶賛推敲中(泣)
またendがちょい遠のきましたが(スミマセン)、よろしくお付き合い下さい♪

『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。

天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、相手を意識するようになっていく。二人で出かけたISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への旅行で、天音は黄龍の複雑な生い立ちを知るのだった――。』

読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪
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宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 8ー4(24)

こわばる指を無理矢理開いて机の上にマグカップを投げ出すのと、ヒステリックにアメリが叫んだのが同時だった。

「なっにを偉そうに! ソラ、あんただってあの男のことなんか、なに一つわかっちゃいないくせにっ。あいつがどんなにひどい嘘つきか、知ってるわけ? ご愁傷様。あいにく、あんたはずーっと騙されてたのよ。はっ、いい気味だわ!」

ぱあん、小気味よい音と弾けるような痛み。
天音は頬にのろのろと手をやった。

なにが起きたのか、まだよくわからない。

エレンが真っ赤になってアメリの消えた自動扉のほうへ毒づいている。
食堂にいた人々の気まずそうな視線だけが胸につきささる。

「ああひどい、アメリの爪で……頬に傷が」

泣きそうな顔でエレンがこちらをのぞきこんだ。

「にしても変わったね、ソラ。以前は謝ってばかりだったのに、言い返すなんて」

そんなのもう、どうでもいい。今は。
天音は力なくうなだれて首を横に振る。

「たしかにアメリの言うとおりかもしれない……。悔しいけど私、鈍感だし、黄龍のことだって本当のところ、よくわかってるって言えないもん」


するとエレンは憤然と席から立ち上がった。

「待ってな。あたし今からアメリを追いかけていって、ぎゃふんと言わせてくる」

「えっ、いい、そんな」

「気にすることないよ。あの女、人のことなんて全然言えた義理じゃないんだから。あたし実はアメリに男いるの、知ってるんだよね」

エレンはいらだちを押さえきれぬ様子で、大仰に拳を前に突き出してみせる。

「この間コビー・アイランドで偶然、見ちゃったの。アメリがなんか派手でヤバそうな男と、腕からめてふらふらホテルから出てくるところ」

「……どういうこと」

「相手は右腕にでっかいタトゥー入れてる男でさ。頬にも傷があったし、なんかいかにもって感じの奴だったのよ。けっこう羽振りは良さそうみたいだったから、まあ、そういう関係なんじゃない?」

そういう関係って、どういう関係。

天音がぼんやりしているうちに、いいよ、あたしその話出して、黄龍には手を出すなって釘刺してきてあげる、とエレンは騒々しく食堂を出て行った。

(アメリはどこで、知ったんだろう……)

黄龍、あの人は――口は悪いけれど誠実だ。
そういう人のはずだ。

だけど見てしまった。

三日前のあの日、泡を食って浴室から脱衣所に逃げ出したとき、はずみで黄龍の脱いだ服が入っていた籠にぶつかってしまったのだ。

その時落ちて散らばった服に、心臓が止まるかと思った。

なぜって内ポケットから飛び出したあの記章は。
見覚えのある、赤地に黒と黄の双頭鷲(ドッペルアドラー)。

(私、どうしたらいいの……)

――あんたはずっと、騙されてた。

アメリの悪意が毒のように胸に沁みてきて、苦しくて涙があふれる。

(黄龍、お願い……説明して)

変わってなんかいない、私は。
今も昔も臆病なままで。

夢にされてしまった初めての夜を、思い出してと言い出すこともできず。
どうして犯罪組織(テロリスト)の記章を持っているのか切り出すこともできず。
このままずっと一緒にいたいと告げることすら――できずにいる。

それでも、愛してしまったのだ、あの人を。
だから失いたくない。どうしても。

(私は、騙されてなんか……っ)

今はわけもなくただ、あの艶のある、意地悪で優しい声が聞きたかった。


                    9

「――で? 黄龍、あんたこれからどう落とし前つけるつもりなんだ?」

夕方、いつものジムで小一時間ほど浩宇と汗をかいた。一週間の運動量はすべてこの施設で計測され、中央管制棟(セントラルコントロールタワー)にデータが送られる。だから平生通りを装うためには、これらを休むわけにはいかない。

ジム内には筋力増強設備の他に格闘技専用のトレーニングルームもあり、良い具合に密室だった。

軍隊格闘技の要素もあるベトナム伝統武術、ボビナムは、かなり実戦に応用が利く。これは物心ついたころより実父と鍛錬していたので、ラフな組み手をするのにソマリアでもよく使った。

対する浩宇は貧困街育ち、とかくどんな武術も自由で応用幅が広い。そんなわけで、鈍った身体の感覚を研ぎ澄ます相手としてはもってこいだった。

「……落とし前とはなんだ。人聞きの悪い」

「とぼけるなよ。さっきだって俺があの娘に声かけようとしたら、全力で割って入ったろ」

俺はラフなシャツにトレーニングパンツ姿のまま、深く息を吐いて構えを解くと、浩宇の言葉を無視して一礼した。

「よし。だいたい、一通りの型は済んだな。筋肉もほぐれたし――」

決行はもう明日だ、この辺で締めようというと、浩宇はあからさまに不服そうな顔をして壁際にどさりと座りこんだ。

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 25に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/sora-25

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