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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 30

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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。

着想は10代の終わり頃。

『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。

天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、相手を意識するようになっていく。二人で出かけたISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への旅行で、天音は黄龍の複雑な生い立ちを知り心を寄せる。しかしふたたび戻ったISSOMでは、双頭鷲(ドッペルアドラー)による無差別テロが決行されてしまう――。』

読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪
15回くらいを掲載していたころは、ちょうどこの30回で終了予定だったんですが。。その後、黄龍のエピソードを追加しちゃったので、あと残り10回ちょいくらいでしょうか。だんだん終わりにむかってますので、よろしくお付き合い下さいませ。 今日はこれから小学校で朝絵本の読み聞かせボランティアです。クリスマス本を読む予定行ってきまーす。

【最初から読みたい方はこちら↓】

 宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 12ー1(30)

                     12


なんという喪失感、脱力感だろう。今まで熱意を注ぎ、築き上げてきたものが滅び去るというのは。

黄龍と幾度かの銃撃戦をくぐり抜けてようやく空港に滑りこんだのは、おそらく正午を回ったころだった。

そのまま駆動する小型機(ボート)で瞬く間にISSOMを後にする。

小一時間ほどたったあと、小型機は宇宙空間に待機していたロシアの護衛艦に収容された。ホテルと遜色ない豪華な客室に通されて、薄汚れた白衣の前あわせを握りしめたまま、天音は涙で声が出なかった。

清潔な寝台に姿見、椅子と机、分厚い絨毯。

助かったのだという安堵感。しかし一人だけこんなところに連れてこられた事実が何を意味するのか、考えたくなくても考えずにはいられない。

しゃくりあげ、子供みたいに手の甲で涙をぬぐっていると、扉にもたれて立ったまま何も言わなかった黄龍が、ようやく動いた。

「まあ椅子に座れ、天音。疲れたろう」

突っ立ったままの天音を無理矢理椅子に座らせると、自分は前に片膝をついて顔をのぞきこんでくる。

「今まで隠してきて悪かった。詳しい所属は明かせないが、俺はロシア空挺軍傘下の特殊任務部隊、スペツナズの人間なんだ。もちろん、宇宙飛行士の資格も持っているが……」

天音は泣きはらした目でぼんやりと黄龍を見た。

もう知ってる。この人はこういう時に嘘なんか言わない。

「スペツナズは国連の紛争抑止軍にも参加していてな。俺がソマリアにいたころからだ。あのころからスペツナズは、双頭鷲(ドッペルアドラー)の幹部のひとりを監視(マーク)していた」

そう黄龍は打ちあけた。

「その幹部は『梟(フクロウ)』ってコードネームを持つテロリストで、双頭鷲って紋章(エムブレム)も奴が考案した。かなりのイカれ野郎だが、語りが上手くて勧誘上手だから人が集まる。奴は目星をつけた衛星に自分の諜報員を潜りこませ、兇行を企てているという話だった」

「それがISSOM……?」

「いや。スペツナズもどの衛星が狙われているかまでは、ついこの間まで特定できなかったんだ。サザンやエリュシオンにも奴の手の者はいたしな」

おそらくこの宙域のどこもが標的になり得たんだろう、と黄龍は言った。

ただタイミング的に、今このISSOMが最適だったってことだ――。

「ISSOMが攻撃された理由は、まさか、それだけなの……?!」

「納得できないだろうが、これが現実だ」

まるで論文を訂正する時みたいに、淡々とした口調だった。

「天音、この世界は『正義』を信奉する輩で溢れてるんだよ。やつらは自分が正しいと信じた瞬間から、その『正義』が他にも複数存在するって事実を直視しなくなる」

単純な話、人の脳ってのは考え続けるのを嫌う。だから自分を洗脳し、思考停止したほうが楽なんだ、と瞳を光らせると、

「そしてちがう『正義』を持つ相手を悪と呼び、切り捨てようとする。『見たくない物には蓋を』。争いって論理は、そういうエゴのぶつかり合いで起き、くり返されてるのさ」

「……っ」

そんな脳科学みたいな理由で片付けないで、と思ったけれど、黄龍の説明はこんな時でも腑に落ちる。

「シュバイツアー博士は著名な世界主義者(コスモポリタン)だから、前々から奴らのブラックリストに載っていた。それで俺にISSOMを探る命が出たんだ。で偵察するうち、一人じゃ埒が明かないとわかったので、不自然にならない数を下界から呼び寄せた――」

すべては任務だったと打ち明けられても、今は感情がひきつれて麻痺してしまったようで、なにも感じない。

天音は顔に手をあて、今し方逃げてきたISSOM空港での悪夢のような出来事を思い返しながら、ぎゅっと目を閉じた――。

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テロ事件で騒然とするISSOM空港の裏口についたとき、最近よく黄龍と一緒にいたあの青年が、紺の軍服を着ているのを見かけた。

その腕章には紛争抑止軍を示すオリーブの葉冠と虹が描かれている。

それでようやく理解した。おそらくカフェテリアで黄龍を取り巻いていた新人の一団は、黄龍の指揮する兵士たちだったのだと。

――浩宇。すまないな。状況は。

――万事問題なく、順調であります。東ゲートの制圧と封鎖は先ほど完了しました。

彼はぴしりと黄龍に一礼して、天音と黄龍を護衛しながら小型機の発着場へと誘導してくれた。

天音たちが入った空港内の業務用通路には人っ子一人いなかったが、マジックミラーをへだてた広い表通路側では戦闘のあった形跡がつぶさに見てとれた。

床に散乱した食べ物、倒れた観葉植物、形の歪んだ簡易椅子……その所々に黒い影が転がっている。

それが人の死体なのだとわかった瞬間、身体が凍るように冷たくなった。

見るな、と黄龍にすかさず身体で視界を遮られる。

天音は進行方向だけ見てろ、いいな。

浩宇、反対側につけ。それと天音の前で言葉遣いは気にしなくていい。

明確な命令はすぐ実行され、それから天音は二人の男の間にはさまって小走りに進むこととなった。


 31に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/sora-31

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