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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 32

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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。

着想は10代の終わり頃。

『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。

天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、相手を意識するようになっていく。二人で出かけたISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への旅行で、天音は黄龍の複雑な生い立ちを知り心を寄せる。しかしふたたび戻ったISSOMでは、双頭鷲(ドッペルアドラー)による無差別テロが決行されてしまう――。』

読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪ しかし12章は修羅場が続くなぁ。。。自分で書いておいてなんだって話ですが 苦笑

【最初から読みたい方はこちら↓】

 宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 12ー2(32)

迷彩服を着たアメリは銃口をぴたりと天音に合わせたまま、ゆっくり近づいてきた。

途中で立ち止まり、動かなくなった浩宇の顔を憎々しげに長靴で何度も踏みつける。

――思い知れ、若造が。何度か優しくしてやったからって、つけあがるんじゃないよ。スペツナズを裏切ってこちらにつくだと? 見返りに情報を提供する? はっ。おかげでボスの到着が遅れちまったじゃないか畜生っ。

やめてよ、と考えるより先に頭を抱えて叫んでいた。

アメリやめて。その人はもう、だからお願い、と。

すると相手は興が冷めたように死人の頭を蹴り飛ばし、天音に飛びついて羽交い締めにすると、脇腹に銃口をつきつけた。

――わめくな。ソラ、おまえ一体何様のつもりなんだ。おまえみたいな無知な箱入り女が、一番ムカつくんだよ!

あんた、あのダニエル・アドラーの孫娘なんだろ。ボスは財閥から金をむしり取るつもりなようだが、あたしはちがう。

ねえソラ、コーヒーの礼は返さないとねぇ、とアメリは残酷な目をして嬉しげに笑った。

その視線の先に黄龍がいた。小銃を構えているものの、天音を人質に取られて一歩も動けないでいる。黄龍、と天音は小さく叫んだ。

――さあファンロン、手を上げて銃を捨てな。さもないとこの小娘、今度は頬の傷どころじゃすまさないよ。烙印つきで中東の僻地にでも売り飛ばしてやる。

天音ははっとした。

見間違いだろうか。

今、一瞬だけ、黄龍の目に光が走ったように感じたのだけれど。

――早く銃を捨てて、こっちへ蹴りな!

怒鳴られても黄龍は落ちついていた。言われたとおりライフルを放り投げる。

しかしそれが床に落ちる前――、まさに刹那の出来事だった。

アメリがはじかれたように身じろいだ。

天音を束縛していた腕から力が抜ける。

ついでその身体がずるりと肩にもたれかかり、地に倒れ落ちていく。

天音は目を見開いた。

黄龍が流れるような所作で背中から隠し持っていた拳銃を抜くと、なんの警告も前触れもなく、アメリの頭を正確に撃ち抜いたのだ。

のろのろと頬に手をやって、かかった生暖かい飛沫の色を見る。――赤い。

喉元まで悲鳴がせり上がってきた。けれど身体がわななくばかりで、どうしても声が出せなかった――。

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それは、問答無用の死だった。

(生まれて初めて……人が撃たれるのを見た)

天音はようやくまぶたを開いた。保護された護衛艦の部屋の窓から外を見る。漆黒の空間に輝く星々。ここからではISSOMは見えない。

だけどきっと一生忘れられない。あの四番ゲートの床面に広がっていく大量の血の海ではなく。天音を取り返し、無表情に横たわる死体を見下ろしていた黄龍が、全然、知らない人みたいで……とてつもなく恐ろしくて。

 今、こうして目の前にいつもと同じ様子の本人がいても、まだ体の震えが止まらない。

(まるで人形を撃つみたいに――この人は)

知り合いの命を奪うのに、一切の躊躇がなかった。アメリは黄龍の出方を待ったのに。

天音は自分の身体をぎゅうっと抱きしめた。

「……アメリだったのね、諜報員(スパイ)は」

黄龍はなにか言おうとしてから諦めたように立ち上がり、サイドテーブルに置かれたバックパックのところまで行くと、黙って血で汚れた衣服を脱ぎ始めた。

鋼のように引き締まった上半身をタオルで丁寧に拭き、紺色の軍服をバックパックから取り出す。その背中の首筋にはひきつれたような傷跡があった。薄く腕にも、脇腹にも。

よく見ると黄龍の身体は傷だらけだった。

しかし上を着替え終えた青年が、ちらりとこちらに視線を投げるや、見たいなら見ろとでも言わんばかりに今度は無造作にズボンのベルトを緩め始めたので、天音は慌ててうつむいた。

「……アメリは『梟(フクロウ)』の女で、双頭鷲古参の一人だ。コードネームは『鷺(サギ)』。宙域における人身売買組織とのつながりも深い」

固まったまま膝頭を凝視していると、やがてつむじあたりに声がかかった。

「以前から指名手配されていたが、しょっちゅう容姿が変わるから、軍も捕らえきれなかったんだ」

ため息をつく気配。それからつかのまの沈黙があって、

「……嫌なものを見せて、すまなかった」

天音ははっと顔を上げた。

すっかり着替え終わった黄龍がまっすぐ視線を合わせてくる。

「今なにが言いたいか、おまえの顔に全部書いてあるぞ、天音。だが口を開くなよ。俺は今までこういう世界で生きてきた。それをとやかく言われる筋合いはない」

それじゃなぜ、そんな苦々しげに眉根をしかめるのだろう。

答えはすぐに知れた。

「それと……じつはスペツナズは今回、任務とは別な依頼も引き受けていた。その依頼ってのが、おまえの護衛だ、天音」

 いつも歯切れのよい黄龍が、言葉を渋っている。

それだけでもう、十分だった。

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 33に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/sora-33

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