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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 33

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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。

着想は10代の終わり頃。

『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。

天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、相手を意識するようになっていく。二人で出かけたISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への旅行で、天音は黄龍の複雑な生い立ちを知り心を寄せる。しかしふたたび戻ったISSOMでは、双頭鷲(ドッペルアドラー)による無差別テロが決行されてしまう――。』

なお、今日はふたたびボーナス回♪でございます。
いつもの2回分以上を1回にしました!
最初は途中で切ってみたんですけど、「え~、ここで切るのはちょっとあんまりにも……」で、結局、次の章前まで全部載せちゃいました。推敲が大変になるから、あんまり分量多いとキツいんですけど。まあいっか。これでようやく、修羅場の12章が終わりますー。
読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪

【最初から読みたい方はこちら↓】

 宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 12ー3(33)

「またお祖父様なの?」

どういう筋から情報を得たかしらないが、祖父はいずれISSOMが危なくなると踏んだのだ。

だからしかるべき専門部隊に孫娘の護衛を依頼し、黄龍が天音の研修補助員(サポーターズ)についた。そういうこと。

「それじゃ、黄龍は初めからアドラーの命令で、私に近づいてきたの?」

「……アドラー財閥は最近、本業の関係で米国の政界関係者とは折り合いが悪かった。どうやら当てつけも兼ねてロシア側に任務依頼したようだ」

裏で財閥や二国間の駆け引きも絡んで、こういう流れになったんだろう、と淡々と説明する黄龍の声からはなんの感情も読み取れない。

「聞いてくれ天音、俺は」

天音は耳を塞いで椅子から立ち上がると、逃げるように戸口のほうへと移動した。

「いや! 今は、なにも聞きたくない!」

生まれてこのかた、ずっとつかず離れず祖父の手の者に見張られてきた。

通信は盗聴され、家計や交流関係も把握され。

しかもストーキングした内容に不満があれば、それはたびたび天音や母に差出人不明の手紙として送りつけられてきたのだ。

いくら被害届を出しても相手は異国の権力者、しかも血縁者なものだから、警察も頼りにはならなかった。

「信じられない。まさか、宇宙まで追いかけてくるなんてっ」

地球を離れて無言の監視からようやく抜け出し、自由になれたと信じていたのに。

いつだってこうして引き戻される、鳥かごの中に。

「そうだ、ISSOMにいた人たちは、どうなったの? エレンはどこ?」

天音は訴えるように黄龍を見た。

「エレンは、アメリがいかがわしい男の人と会ってるの、知ってたのよ。アメリもエレンがそのことを知ってるのは、わかってたと思う。でも大丈夫なんでしょ? まさか、それくらいじゃ殺されたりしないわよね?」

「……」

「嘘。私だけが、安全な場所に逃がされたの?!」

エレンはどうなっただろう、教授は。一緒に着任した研修生たちは。

身体から血の気が引いていく。

「黄龍、どうして? ねえ、どうして襲撃されるって知ってたのに、皆に教えなかったの。まさか双頭鷲を出し抜くために、内緒にしてたんじゃ……っ」

黄龍は知らない。

いつも特別扱いされ、優遇されるつらさを。

どんなに仲良くなっても、こうやって一瞬で断ち切られるのだ、大切に思ってきた人たちとのつながりを。

「ひとりだけ助かったって、意味ない……」

怖くて逃げ出したかったのは、自分だけじゃないはずだ。

特別に扱われることへの罪悪感。黄龍だけにはわかってほしかったのに、と本音が漏れた。悔しい。涙が止まらない。

「天音」
    
困り果てたように低い声が自分の名を呼ぶ。

本当はわかってる。黄龍にだって決定権はなかった。上の指示に従うしかなかったのだろう。

だけど、嫌だ。こんなやり方は許せない。必死にかぶりを振った。

「……天音」

黄龍がゆっくりこちらに近づいてくる。

「今は聞かないって言ったでしょ、ばかっ、黄龍なんて、だ、だいっきらいっ」

その瞬間、嵐のように右腕をつかまれて、気づけば黄龍の胸の中にいた。

「大嫌い、か。はは、しかたないよな」

最初から俺はおまえを騙していたんだから。黄龍はそう言って天音の頬を両手で包みこむ。

「好きなだけ罵れよ、否定はしない、俺はたしかに大嘘つきだ。……それでも愛してる、おまえを」

聞き取れないくらいかすれた声で呟くなり、黄龍は天音に口づけた。天音は抗おうともがいたが、堅い腕が体の自由を奪い、どうしてもいうことを聞かない。

そのうち本当に息が苦しくなってきて顔を背けると、すぐにまた、熱い唇が追ってきた。

「やあっ、黄龍っ」
 
  体の奥からなにかが強くこみあげてくる。肌まで焼き尽くされそうだ。

感じてしまう、甘くふれあう唇から。黄龍は本気だ。満たされる、潤っていく、喜びで胸が震える――天音はたまらずぎゅっと眉を寄せる。

黄龍、愛してるって言ってくれた……、ああ私、最低だ。どうして自分のことしか考えられないの、こんな時なのに!

「……本当は、エリュシオンで最後だった」

「え?」

「おまえを地球に返せと、アドラ―から指示が来ていたんだよ。なのに、できなかった。俺はどうしても失いたくなかったんだ、おまえとの生活を」

天音はひく、とのどを鳴らした。

腕の力をぬき、黄龍は肩をすくめる。

 

「情けないよな。緊迫化するISSOMで隊員たちと出動計画を練りながら、毎日毎日、未練たらしく考えていたんだから。どうしたらおまえの側にいられるか。いつまで支え、守ってやれるか」

「黄龍……」

ごめんな、と 黄龍は微笑む。胸が詰まりそうになるくらい切ない目をして。

「だが、どう考えてもやっぱり、俺はおまえの隣には立てそうにない」

天音は水を浴びせられたように息を飲み、立ちすくんだ。

「さっき見ただろう、浩宇の最期を。俺はあいつと同類だ。俺にむけて開く楽園の門はない」

「待って黄龍、わ、私」

「だめだ、言うな。さっきまで俺を死ぬほど怖がっていたくせに。もう忘れたのか」 

打たれたように体がこわばる。

黄龍は私を、いつでも恐ろしいくらい理解している――。

「いいか、俺たちは絶対にうまくいきっこない。住む世界がちがいすぎる」

 だからここで別れよう、と黄龍は天音の肩をたたいた。天音はあえいだ。

「おまえをこの本艇に送り届け、身の安全が確保された時点でアドラーとの契約は完了だ。ここから先はスペツナズの任務に移る。俺は双頭鷲を掃討しにISSOMに戻り、今度こそ確実に『梟』を仕留める」

でなきゃ今まで死んでいった奴らも浮かばれないしな、と黄龍は天音から離れて諦めたようにため息をつく。

「また、殺し合いをするの……っ」

止まらない黄龍をなんとか引き止めたくてそう問うと、相手はバックパックを肩に投げ上げて動きを止め、まっすぐにこちらを見た。

「野暮な女だな。おまえは俺になんて答えてほしいんだ?」

天音ははっと息を詰めた。

選択肢などないのだと、その目が語っている。

でも黄龍はあんなに殺戮を嫌悪して、傷つけたぶんだけ自分も傷ついていたのに。どうしていまだに闇から抜け出せないんだろう。

言葉もなく涙ぐんでいると、

「……泣くな。いいんだよ、おまえはそのままで」

黄龍はぽつり、呟いた。

「今おまえのその顔を見て、やっとはっきりわかった気がする。――俺はずっと怖かったんだ。俺のわがままで、おまえまでこっち側に引きずりこんじまうんじゃないかって」

「黄龍」

天音は胸をつかれて息ができなかった。

「天音。俺はおまえを最後まで守り抜けてよかった。そして今、あるべき場所へ返せてよかった。どうかこの先も、光の中を歩いていってくれ」

なろうことなら俺も、天音のように生きてみたかったけどな、と言って黄龍はくしゃりと笑む。それから踵を返すと、

「もう行かないと。部下たちが待ってる」

「いや……」

「ありがとう、天音。おまえと出会って初めて、腹の底から笑えた気がするよ」

「黄龍!」

「名残惜しいが、サヨナラだ」

そう言って黄龍は戸口から出て行った。軽く片手をあげ、もう片方の肩にバックパックを背負って。見慣れてしまった頼もしい後ろ姿だ。

いや、離れたくない。

お願い、行かないで。戻ってきて。

声がのどに張りつく。

今、追いかけなければ、彼を永遠に失ってしまう。そう思うのに体が動かない。

「許して……っ」

胸がずくずく疼いた。知っていたのに。

黄龍はずっと、人を殺めた過去を恥じていた。だからこそ私だけは、なにが起きても怖がっちゃいけなかった。あの人を救うって……心に決めたはずなのに!

急に脇腹が締めつけられるように痛んで、耐えきれずその場にうずくまる。

嗚咽とともに吐き気がこみ上げ、その場で吐いてしまう。

刹那、なぜか肌が粟立つようなするどく不吉な感覚が脳天を打った。

(なに、いまの。虫の知らせ?)

 脚が震える。身体がわななく。

 ――宇宙では普段眠っている感覚も、時に鋭敏になるっていう話よ。

 エレン、これって、まさか。

「――戻ってお願い、黄龍っ!!」


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 一週間後。日本の環境庁に戻った天音の元に、多数の殉職を知らせるリストが届いた。

結局ISSOMは助からなかった。

掃討作戦の最中、衛星の側壁に突っ込んだ貨物船が爆発。

生存者のほとんどが宇宙空間に投げ出されてしまったからだ。

報道によると双頭鷲所有の船は、他の衛星でも自爆の予行演習をくり返していたらしい。

上司が気を利かせて会議スペースを空けてくれたので、天音はリストを誰にも邪魔されず確認できた。

簡素なコピー紙に印字された死の通知には見たくもない名前が列記されている。

エレン・コリンズ。

マルティン・シュバイツァー博士。

馴染みの食材店や園芸所(ナーサリー)の従業員の名もあった。そして。

――グエン(Nguyen)・ヴァン(van)・ファンロン(Hoang Long)。

天音は机につっぷし、泣きくずれた。
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34に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/sora-34

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