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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 35

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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。

着想は10代の終わり頃。

『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。

天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、相手を意識するようになっていく。二人で出かけたISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への旅行で、天音は黄龍の複雑な生い立ちを知り心を寄せる。しかしふたたび戻ったISSOMでは、双頭鷲(ドッペルアドラー)による無差別テロが決行されてしまう――。』

なお、本日もまた増量版です。
というのも、読んで頂けたらおわかりになるかと思いますが、バトル回なもので、途中で切ると……、うーん、まぁ切れなくもないかもしれないですが、なんか肩すかしというか。
あと終盤にさしかかってきて、ここはもう推敲終わったので、いっかなと。よーし、いっちゃえ~、全部まるっと載せちまえ! 黄龍、ぶちかませ~! な、ノリ。笑
ていうか、日曜の朝っぱらから、ばりばりハード展開で恐縮です。。。汗
明日はがらっと一転しますんで、そちらも請うご期待☆
読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪


【最初から読みたい方はこちら↓】

 宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 13ー2(35)

『梟(フクロウ)』は遮蔽物にまぎれ、最後まで残った部下の背後から襲ってきた――サバイバルナイフを振りかざして。

奴はもともと三日月刀での暗殺を得意にしていたテロリストだった。

部下は羽交い締めにされて一瞬で喉を裂かれた。

俺は倒れこんできた男を床に横たえた。

その隙に『梟』が音もなく飛びかかってくる。

刃が光った。とっさに小銃で受け止めたが、相手は大男だ。重みを受け止めきれず、もんどり打って転がった。

『梟』は俺にのしかかり、めったやたらにナイフを握った手で殴りつけてきた。

俺は何発かその打撃を食らった。目の前で火花が散り、額を血が伝う。

反転して攻撃をはずし、起き上がりざま相手のみぞおちを狙って思いきり蹴り飛ばすと、はずみで小銃が腕を抜けて飛んでいった。

『梟』は自らを戦士と呼ぶだけあって、あいかわらず一つ一つの攻撃が重かった。

しかもまるで自分の身体の一部のように刃を扱う。

腰に隠し持った銃で反撃したかったが、昨晩からここまでずっと戦い通しだった疲労が重く肩にのしかかって、防戦一方になった。

頬のすぐ横をナイフがかする。相手の動きに余裕が見える。

このままではやられる。なんでもいい、なにか使えそうなものはないか。

非常灯のぼんやりした青い灯りの中、周囲を見回すと、試作機のアンテナが目に入った。

あれは。組み上げ前の支柱が三本、アンテナ脇に転がっている。

ぎりぎり届くか。手をさし伸ばし、支柱を取って剣のように構えると、

「逃がさんぞっ、ファンロン!」

『梟』がすぐそこまで迫ってきた。

とっさにアンテナを投げつけて視界を奪う。

相手が怯んだ隙に左腕でナイフを持った手を打ち払い、深く踏みこんだ。

よし、間合いに入った。力のかぎり鋼材を相手の脇腹につきたてると、肉を突き通す、たしかな手応えがあった。

奴は獣のような叫び声を上げ、ナイフを振り下ろしてきた。

俺はその刃を間一髪かわし、全力で走って液晶パネル板の影に飛びこんだ。

「グエン・ヴァン・ファンロン、なぜだ」

『梟』は大声で吼えた。なぜおまえは恐怖にも誘惑にも屈しない。何度倒してもまた、立ち返ってくる、と。

「……俺が、おまえの死神だからだ」

腰からようやく拳銃を抜き、俺は言葉を返した。

殴られた反動で、まだ少し視界が揺れている。このブレを戻さなくては、撃てない。

「なんだと――」

「『梟』、おまえはこの中央管制棟(セントラルコントロールタワー)でまたあの最悪なガスをばらまくつもりだったろう。しかしその計画は失敗した。どうして失敗したのか理由を教えてやる」

ソマリアで使われた際の神経毒の主成分は二つだ、と俺は言った。

うち一つは他の化合物と混ぜると反応を起こし中和しやすい。

「あのバイドアの惨事後、うちの長官は科学部隊から有能な人材を引き抜き、作戦本部につけた。そしてこのISSOMは巨大な科学施設だった……」

「つまり対処は初めから万全だったとでも、いいたいのか」

奴が腹から鋼材を抜き、床に捨てる音がした。

「そうだ。同じ轍(てつ)は二度と踏まない。おまえたちのガスの入手ルートも資金源も暗躍した人間が誰なのかも、俺はすべて把握している」

静かに目を閉じる。深く息を吐く。かすかにざりざりと床を踏みしめる音。

来る。左だ。

そのまま腕だけパネルから出して撃つと、獣が咆哮するような声が上がった。

しかし直後、狙い澄ましたようにサバイバルナイフの刃がパネルを押し破り、さしこまれる。

肩に激痛が走り、俺はうめいて拳銃を握りしめた。これだけは取り落とすわけにいかない。

――殺気がくる。

液晶パネルを蹴り上げて、『梟』がふたたび組みついてきた。

相手はレスリング競技者のような体格だ。まともにやったら勝ち目はない。

低い体勢からさっきの脇腹へ強烈な蹴りを加え、なんとか距離を取る。

 奴はふんばって立っていたが、腹と右太ももを庇っているのは明らかだった。銃弾が命中したのだ。

「ファンロン。ハオユーには騙されたが、それでもやはり俺は貴様が欲しいっ。何度も言っている、貴様は俺の同志だ! こちら側につけ!」

『梟』が叫ぶ。声が周辺の壁に反響する。

「なんのためにそこまでして闘う? 正義か。愛国心か。そんなものが貴様にないことくらい、俺はとっくに知っているぞ!」

ファンロン、貴様が軍から外れられない一番の理由を知っている、と『梟』は言った。

「英才。神に選ばれし子供。特別なガキが能力を強化されて至高の器となった、それが貴様だ」

「やめろ、それ以上言うな!」

すると『梟』は勝ち誇ったように笑った。

「そのたぐいまれなる頭脳に身体能力、そして『鷺』が食指を動かされるほどの容姿……、貴様はまちがいなく神に選ばれし戦士だ」

おまえが流すその汗と血は、真に価値ある戦にこそ捧げるべきだと男は両手を広げる。

「百年、千年たとうとも、歴史はくり返す。民はいまだ権力の奴隷だ。権力者はいつの時代も、自己の利益しか考えない。ファンロン、貴様も人生すべてを搾取されている一人だ。それが、なぜわからない!」

人類は宇宙に出た。ここは新天地だ、と『梟』は朗々と声を響かせて叫ぶ。

「見ろ。ここはまっさらな、まだ地球のどの既存勢力にも毒されていない大地だ。ここに強く美しい理想の国を造れるのは、古く汚れた悪しき者たちではない。清い新しき神の使者たちだぞ。これは聖戦なのだ。さあ立て、戦士よ!」

俺は動かなかった。

戦士か。言い得て妙じゃないか。

三日月刀を振り回して神を信奉し、容赦なく人の首を切って回る。

こいつはどう考えても生まれてくる時代をまちがえたのだ。今が二十二世紀じゃなく古代か中世であれば、あるいは歴史に名を残せたかもしれない。犯罪者としてではなく。

「――ご大層な演説は、それで終わりか」

「なにっ」

「他の人間は騙せても、俺には無理だ。かつてバイドアでもおまえは同じことを言い、大勢の人の命を奪った……」

「あの時とはちがうぞ、ファンロン。我らは宇宙で自由な国を建国しようというのだから」

「そして宙域を支配したら、次は宇宙から地球を毒ガス兵器で狙い撃ちするのか? そうやって恐怖で世界を統一するつもりなんだろう」

あいにくだったな、と俺は苦く笑い、銃口を『梟』にむけた。まだどこかに余裕をのこしたその双眸へ。

「言っておくが、そうやっていくら時間稼ぎしても、ここに双頭鷲の増援は来ないぞ」

「なんだと。なぜ貴様がそのことを」

「おまえの仲間は軍との極秘取引に応じた。『梟』をここで見捨てれば、今後、地球での裏権益が一部黙認されることになる」

『梟』は目を見開いた。

「同志たちが、俺を売るはずがない――」

「では待ってみろ。もうだいぶ時間をすぎたはずだ。中国人傭兵の諜報力は、おまえも脅威に感じていたはずだが」

「馬鹿な。俺は英雄だ。選ばれし戦士だ」

『梟』はあえいだ。

その目に初めて焦りの色が浮かんだ。

俺はただじっと相手を睨んだ。

「……ファンロン。これはすべて、貴様が仕組んだことなのか」

「いや。すべてじゃない」

だが俺を復讐の鬼に変えたのはおまえだ、というと『梟』は突然、狂ったようにわめきだした。

「神よ、審判の時がきた! いいかファンロン、よく覚えておけ。戦士の死は神の意志による。貴様じゃ俺の魂までは殺せない。我が死は神の国の礎となり、永遠に世の記憶に残り、賞賛されるだろう!」

「……いや、人の死に意味は無い」

「なにをっ」

「死はただの無だ」

「戯言を。選ばれし者の死は、特別なのだ――」

『梟』は笑ったようだった。

その手が胸元に伸び、なにかを探ろうとした。

この後に及んでまだなにかを企てる気か。その刹那、俺の心を支配したのは怒りだけだった。

こんな狂った奴一人のために、いったいどれくらいの人生が奪われた。

白い狂気が湧き上がり、身体を包みこんでいく。

やはり、こいつだけは許すことができない、どうしても。

「『梟』。おまえは、何世紀も前に存在した人間たちの、怨念に毒された亡霊だ。過去の闇を、未来に持ちこむな――」

俺は引き金を引いた。

一発。二発。三発。奴の身体から次々に鮮血がほとばしる。

四発。五発。六発。もう急所は撃ちつくしたのに、死んでいった部下たちの顔が浮かんで、指がどうにも止まらない。

男は機械人形みたいに身体をねじりながら、ゆっくりと仰向けに倒れこんだ。

その次の瞬間だった、耳をつんざく大音響が建物を揺らしたのは。

鼓膜を突き破るような爆発音――なにが、起きた?!

『梟』がなにかをしでかしたのだ、という直感があった。

だが目視することはできなかった。爆風と熱波が部屋を襲った。

身体が浮き上がる。俺は広い空間の端から端まで飛ばされた。

「……っ!」

避けきれない。床に容赦ない力でたたきつけられる。まるで巨人に踏みつぶされた蟻のように。

それから天井が崩れてきて下敷きになり……その先は記憶がない。

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と、ふたたび声が問うてきた。

――なるほど、『梟』との顛末はよくわかった。だけど君の記憶は本当に、それだけなのか? 他になにか覚えていることは。

一体この声の主は誰なんだ、と俺は暗闇の中でいらだった。

まるでうるさい蝿みたいだ。

だが思い出せ、と声は容赦なく要求してくる。頭痛がまた一層ひどくなった。


36に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/sora-36

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