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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 36

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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。

着想は10代の終わり頃。

『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。

天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、相手を意識するようになっていく。二人で出かけたISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への旅行で、天音は黄龍の複雑な生い立ちを知り心を寄せる。しかしふたたび戻ったISSOMでは、双頭鷲(ドッペルアドラー)による無差別テロが決行されてしまう――。』

13章は黄龍の回想が続いております。昨日までの激しいバトルから今日は一転。
そしてこのエリュシオンですが、おそらく今日を入れて、あと6回で終了みこみです! わーん、ようやく目処がついた~。
いや、最初は20回ぐらいとか言っておいて、ずいぶん長くなりました(汗)
最初から毎日お付き合い下さっている読者さま、本当にありがとうございます!!もーほんと、なんていったらいいのか、感謝しかありません~~!! 涙
あとちょっと、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪


【最初から読みたい方はこちら↓】

 宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 13ー3(36)

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と、脳に直接衝撃が走るような痺れがあって、ふいに視界が開ける。

そしていつの間にか俺は、勝手知ったるISSOM宅の居間にいた。

「なんだ。これは夢か?」

いや、夢じゃない。この声は俺の声、これは現実だ。

俺はタートルネックにジーパン姿でソファに座ったまま、両手には鉄アレイ、口には疑煙草を咥えていた。

サイドテーブルには天音の書いた論文が散らばっていて。

ああ……思い出した。

これはエリュシオンから帰った直後くらいか。

泣きたくなるほど幸せな、光の記憶――。

ほどなく背後からぱたぱたと軽い足音が響いてきた。

天音だ。

ブラックコーヒーとカフェオレが入ったマグカップを両手に持ち、鼻歌を歌っている。

歌の主は机の端に二人分のカップを置くと、そのまますぐ脇のソファに子リスみたいに飛び乗って、脇に挟んでいたチラシを俺の目の前でちらつかせた。

「ね。コーヒー入れたよ、黄龍」

「おう」

日本人とは、そうとう風呂好きな民らしい。

シャワーだってあるのに、天音はしょっちゅう湯浴みをしている。

今は風呂上がりらしく、さっぱりしたタンクトップにジャージ姿で、洗い髪は頭の上で大きな団子になっていた。

「あのね黄龍。ちょっとお話が――」

「おい、危ないぞ天音。いきなり近づくな」

俺は慌てて鉄アレイをソファの下に置いた。

ぶつかったらどうする、何キロあると思ってるんだ。

だがこの女は、そんなことはどうにかこっちが対処してくれるはずと言わんばかりに隣にくっついてくる。

「ねえ、無視しないで、ちゃんとこれ見て下さいっ。エレンがくれたんだけど、今度、倉庫街でお祭りがあるんだって。でね」

髪と肌から甘い香りが立ち上り、俺の鼻孔をくすぐる。ささくれた心を潤すように。

こいつの肌がいつもむきたての卵みたいなのは、頻繁に入る入浴の成果なのかもしれない。

「この店と、この店の料理が絶品なんだって。黄龍、イベントがある週末って時間ある? 私、行ってみたいんだけど、一緒に行かない?」

俺は疑煙草を口から外した。脇に置いていた携帯灰皿に放りこみながらうっすら考える。

もし……このまま腕を回してこの華奢な身体を引き寄せたら、天音は嫌がるだろうか。柔らかな唇に口づけたら驚くだろうか。

最近はこいつが側にいると、すぐよこしまな念ばかり湧いてしまう。

情けないことに、つまりそれくらい好きになってしまったわけだが、正直なところ、天音は俺をどう思っているんだろうな――。

どのみち一度でも抱きしめたらそこから先、歯止めがきかなくなりそうだったので、腹の奥でじりじりくすぶる熾火を残念な気持ちでもみ消し、答えた。

「とか言って、ついてきて欲しいんだろう。いかにも迷子になりそうだからな、おまえ」

にやりと笑ってみせると、天音は魚のふぐみたいにほっぺたを膨らませる。

すかさず頬の両側を手ではさむと、ぷ、と息を吹いて、ますます怒った表情になった。

「おお、おもしれえ顔」

「もうっ、意地悪! 真剣に聞いてるのに!」

本人はめいっぱい不愉快なのだろうが、俺はじつのところ、こいつのこういう紅潮した顔もかなり可愛いと思う。

瞳がきらきらして、裸足をばたつかせる様子も、小動物みたいで。

「悪かった。怒るなよ、行ってやるから……っ」

くつくつ笑いながらマグカップへ手を伸ばす。

しかし、もうそこにあの見慣れたカップはなかった。

「……天音?」

ずきりとこめかみが刺されたように痛んだ。

そしてふりかえるとそこはもう、全然ちがう風景の中だった。
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37に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/sora-37

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