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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 39

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初めての皆さま、こんにちは。ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。

着想は10代の終わり頃。

『西暦2122年。――一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。

天音の研修補助員(サポーターズ)で同居人の黄龍(ファンロン)は、三つ年上でベトナム出身の英才冷血宇宙飛行士。二人は一緒に暮らすうち、相手を意識するようになっていく。二人で出かけたISSB―Lab(国際宇宙植物園)、通称『楽園(エリュシオン)』への旅行で、天音は黄龍の複雑な生い立ちを知り心を寄せる。しかしふたたび戻ったISSOMでは、双頭鷲(ドッペルアドラー)による無差別テロが決行されてしまう。掃討作戦に参加した黄龍は、死亡したとされていたが――?』

今日からいよいよ最終章。読者のみなさま、引き続きエリュシオンをお楽しみ下さい♪


【最初から読みたい方はこちら↓】

 宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 14ー1(39)

                    14

久々、アルマトイの国際空港を訪れた。

カザフスタンではここのところ新型航空機の導入があいついで検討されている。

関係各社は猫の手も借りたいほど忙しいらしく、俺の所属するバイコヌール宇宙基地にも仕事依頼を出した、というわけだ。

俺の現在の名はキリル・アンドレーエフ。

昔、義父がロシア国籍にする際に届け出た帰化名で、これまでほとんど名乗ってもこなかったから、あまり思い入れはない。

だがスペツナズでの過去を隠すにはうってつけだ。

思えばロシアにもずいぶん世話になった。

寒く暗い幾多の冬には、太陽が燦々と降る祖国ベトナムを懐かしく思わずにはいられなかった。

だが第二の祖国がなかったら、俺の人生もまた確実に行きづまり、生きる場を失っていただろう。

つなぎの作業着姿で空港の喫煙所から出た俺は、つり下げられた大型スクリーンを何気なく見上げ、思わず足をとめる。

――ダニエル・アドラ―、死去。

 黄龍という男をこの世から抹消した天音の祖父は、一週間前に老衰で亡くなったらしい。

九十八才。大往生じゃないか。

今頃、天音はどういう思いでこのニュースを聞いているのだろう。

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ISSOM崩壊から、五年がたっていた。

あの日、落下してきたコンクリート片に足を挟まれたおかげで宇宙空間に投げ出されなかった俺が、探しに来たオリビエの救急艇に回収されたのは幸運だったとしか言いようがない。

その後、収容されたロシアの病院で半年ほど生死を彷徨(さまよ)った。

アルバトフ英才教育研究所はそうとう躍起になって、俺を蘇生しようとしたらしい。

義歯はオリビエがとっくに抜いて持ち去っていたから、俺がロシア側に引き取られた際には、何が起きたのか連中は最後までわからずじまいだったわけだ。

俺はこのまま植物人間で終わるだろうとも言われていたらしいが、半年たったある日、奇跡的に意識を回復した。

するとアドラ―財閥がバイコヌールでの航空機設計の職を打診してきたのだった。

黄龍は死亡したとする一報を公には訂正しない代わりにだ。

なんのことはない、体(てい)のよい厄介払いというやつだった。

天音の祖父は自分の命令に反し、孫娘の命を危険に晒した男を許すつもりはなかった。

これ以上悪い虫が孫の側を飛び回らぬよう、名を変えさせ、羽をもいだのだ。

スペツナズから除籍となり、黄龍(ファンロン)という自分を失う。

正直、天音と逢えなくなる道を絶たれて未練がなかったと言えば嘘になる。

でもそれで良かった。

どのみち俺はあの時の戦闘で、宇宙(そら)で飛ぶ力を失ってしまったのだから。

闇に堕ちたままでもいい、人生をやり直す。

もう嘘はごめんだ。二度と恥じない生き方をしたい、今度こそ。

俺はアドラーの申し出を受けた。

スペツナズは除籍を渋ったらしいが、結局は大財閥の圧力に勝てなかった。

あそこは腐っても国家秘密組織だから、俺に新しい名前のパスポートを用意することくらいは朝飯前だ。

こうして俺はほどなくして完全なロシア人として人生を再スタートしたのだった。

アルバトフ英才教育研究所の連中は、そうなってもまだ俺の頭脳に執着していたようだが、思ってもみなかった外部から厳しく実態を糾弾され、泣く泣く次なる義歯を装着するのを諦めたらしい。

オリビエが手を回してくれたおかげだった。

あの義歯は今、ノルウェーの医療団体が保管している。

今にして思えば、あいつの祖国も国際人権擁護団体の力も、けっこうな影響力があったわけだ。

なるほど天音の言ったとおり、諦めなければまだ間に合うのかもしれない。

俺は義歯の一件でひそかに考えを改めた。

環境汚染。紛争。貧困。差別。

この疲弊した地球に、残された時間は少ない。

だがそれでも人はまだ、なにがしか善きことを成し遂げられるだろう――志ある国や人間たちが、この地球上に存在するかぎりは。

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え、これで終わり? いえいえ、あとちょっと、ラストシーンへと続きますよ!*40に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/sora-40

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