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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【自作ノベル】宇宙に浮かぶエリュシオン 5

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みなさん、こんにちは。
創作が大好きな、ゆきうさぎと申します☆
10月最終週から、自作中編小説『宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン』を記事にしてます。

着想は10代の終わり頃。元原稿が2014年作。
気に入ってるストーリーなのでぜひこの機会にお披露目したい!と思ったのですが、この5年の間、ワタクシの腕も多少は成長していたようで、「これって……このまま載せられない~」と毎日修正中。
楽しんで記事にしていきますので、よろしくお付き合い下さいませ。

『西暦2122年。――前向きで努力家、少し気の弱い一ノ瀬天音(そら)は、二十二歳の国際宇宙気象観測所、通称ISSOM研修生。

研修補助員(サポーターズ)制度で同居していたオリビエには婚約者がいた。それなのにある日、オリビエは天音を抱きしめて――?

読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪

【最初から読みたい方はこちら↓】

宇宙(そら)に浮かぶエリュシオン 2-3(5)

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「かしこまりましたー、ファンロン中尉っ」

「悪ふざけはやめろ、オリビエ」

思わず叩くように厳しい声が口をついて出た。

バイドア――それが、オリビエと初めて出会った駐留地の名だ。

日常茶飯に砲弾を撃ちこまれる野営地で、腕のいい従軍医は貴重だったから、すぐに顔を覚えた。

(あそこで何人が命を落としたろう)

エチオピア・ソマリアの国境線を巡るあらそいは百年前から断続的に続いている。

先進国が立ち上げた紛争抑止軍は『この世のあらゆる場所を標的(ターゲット)にする』と豪語するテロ組織、双頭鷲(ドッペルアドラー)の台頭に苦慮していた。

(あの頃から、俺とオリビエの立ち位置は変わっていないな……)

指令があればためらいなく人殺しをする自分と。その横で着々と命を救うこいつと。

(しょせん、俺の両手は血塗られている)

 暗澹(あんたん)たる思いがこみ上げ、思わず奥歯をかみしめた。

一本だけな、と断って懐から疑煙草(フェイク・シガレット)を取り出す。

ISSOM内は禁煙だ。地球に降りるまでは、このよくできた疑似品で我慢するしかない。

「ソラはいい子だよー、ファンロン」

 唐突に寝言のようにオリビエがうめいた。

「絶対に君とは相性がいい」

「……なにを藪(やぶ)から棒に」

「彼女、すごく気が利くんだ。静かだし」

「だから、なんなんだよ」

「いやー、別にぃ。君には派手美人よか、そういう子が合ってるだろうって話さ……」

疑煙草が吐き出す透明な陽炎を目で追いながら、馬鹿やろう、と毒づく。

だがオリビエの目はとろんとして焦点が合っていない。

今はなにを言っても無駄なようだ。諦めて立ち上がり、床に放り出されていた鞄をひろうと台所へむかった。

台所の自動扉が開くと、天音はびくっと肩を揺らした。

調理台の上に並んだ料理は保存容器に移されている最中で――その皿の多さに、不思議なほどいらついた。

「あ。黄龍」

「……」


「お腹、すいていない?」

(食い物がこれだけあれば、数日は生き延びられる……)

内心、舌打ちした。脳裏に蘇る、両手を差し出して物乞いする痩せこけた子供の姿。

わかっている、ここは戦場じゃない。
だが一言言わずにいられない。

「……あんたさ」

鞄の中からとりだした書類の束をオーブンの上に放り出すと、思いのほか大きな音がした。リスのように身を縮める天音を見てぐっと腹に力を入れる。

「オリビエに何かを期待するな。あんただって、わかっているんだろ?」

はじかれたように、天音がこちらを見た。

「婚約している男に、惚れても無駄だ」

そう言うと、相手はうるんだ大きな瞳を見開き、それからすうっと青ざめていく。
その様子を見て確信した。

こいつは自分がなにをしているか、わかってやっていたんだ。
まったくこれだから女ってのは……いかにも弱そうなフリをして、その実、したたかでずる賢くて。まったく油断ならない。

ふいに堪えきれないほど強い感情がこみあげてきて、この甘ったれた性根をやりこめたいという誘惑に打ち勝てなくなった。

たたみかけるように言を告ぐ。

「変に優しいあいつも悪いが。自分に好意を持ってる女に冷たくできないのは、男の性だ」

「あの……」

「それより問題はあんただ、天音」

オリビエになら通用したろう。だがこの俺には泣き落としも演技も、女の武器は一切効かない。それをこの機会に、わからせておきたかった。――いつもなら見て見ぬフリだが、あいにく俺はこのフワフワ女を、これから指導しなくちゃならないときてる。

「俺は不抜けた根性のやつは大嫌いだ。あんたISSOMに何しに来たんだ? まさか、あいつに飯を作ってやるためじゃないよな」

はっきり言ってやると、天音の顔色が変わった。頬が見る間に紅潮し、細かく震え出す。

「私、そんなつもりじゃ……」

そして天音は押し黙ってしまった。てっきり反論がくるかと思いきや、濡れた唇が何度か何かを言いかけて止めては、息を吐く。

「――そうね。ごめんなさい」

ごめんなさい、だと?!

「俺に謝ってどうする……っ」

それまで臨戦態勢に入っていた体が一気に弛緩するのを止められない。

なぜ謝る。どうして闘う前に諦める。

理解できない――こんな簡単に白旗をあげられたら、これ以上責められないじゃないか。まさかそれが狙いなのか。だとしたら相当、食えない女だ。

「もっと必死になれ。普通は、ここに上がってくるのさえ大変なんだからな」

しかたなく、ごもごもと言い訳のように呟くと、天音はその言葉にはっと顔をあげ、小さく喉を鳴らした。

「黄龍、あなた」

俺は眉間に皺を寄せる。
今の今までしおれた花みたいだったのに、相手が瞳に挑むような光を浮かべ、こちらを睨みつけてきたからだ。今にも泣き出しそうな表情で。

「聞いたのね、オリビエに」

「な、なにを」

「私の母がダニエル・アドラーの娘だって」

天音は話す隙を与えたくないのか、急に早口になった。

「いいの。隠していたわけじゃないし。私は今回も、祖父の七光りでISSOMに来れた。いつだってそう。母が父と別れたのも、祖父が父を気に入らなかったから。そうやって一度も会ったことのない、会おうとしない祖父から、私も母も干渉され続けてきたのよっ……」

いつの間にか形勢が逆転していた。強いまなざしでこちらを威嚇しているのは、追い詰められた鼠のような天音のほうで。

「でも私は今度こそ自分の力で、人生を切り開こうって思って、ここに来たの。それだけは本当だから……」

目尻からあふれる涙を指でぬぐい、微笑む天音を見て、不覚にも心臓が早鐘を打った。

「あ……いいわけしたかったんじゃないの。きっとまだ、足りないから悪いのよね、私の誠意も能力も」

誤解されて悔しいなら、泣いてる場合じゃない。もっともっと努力しなくちゃ、と独りごちる相手を見て、急に激しい後悔の念が襲ってきた。

しまった。俺はなにを、勝手に勘違いして。
こいつはあの女とはまったく無関係なのに。 

6に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/sora-6

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