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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

【短編小説】『ただ、君に逢いたい』1(恋愛ファンタジー)

こんにちは、ゆきうさぎです。
さて昨日予告しましたとおり、今日から子供達の夏休み終了まで、短編小説を掲載します。
夢たびのほうを楽しみにして下さったみなさま、もうしわけございません!!
今しばらく、お待ち下さいませ~~ 汗汗

なおこの作品は、原稿用紙20字×20行換算で30枚ですので、6日間で1作完結予定です。
あと、この話は女子むけですが、これからいろいろな読者層むけに書いた作品を上げていくので、よろしければ今後もお付き合いくださいね♪

それでは、お楽しみ下さい☆☆☆

 

ただ、君に会いたい1

  優しい春雨の降る午後、霧けぶる崖端(がけはた)の小道をトウカは行く。
湿った道はすべりやすく、今にもぱっくり横に開いた黒い淵に引きずりこまれそうだ。
しかしトウカは裸足のまま鼻歌を歌いながら前に進んだ。
外套は水分を吸ってみっしり重くなっていたけれど、なんだかひどく高揚した気分だったのだ。

(もうすぐ、谷に帰れる……)

 トウカの国には世にもめずらしい植物がたくさんあった。
今まで何人の泥棒が、生命(いのち)の草や神樹を狙ってやってきたことか――それをたった一人でしりぞけるのが見張り番の役目だった。

 その役もあと一月(ひとつき)で終わる。
交代がくれば、トウカも故郷の村に戻れるはずだった。

 いつもの見回りを終え、意気揚々、崖の中腹にある見張り小屋まで戻ってきたトウカは、思わずぎょっとして立ち止まった。

 見慣れた猫の額(ひたい)ほどの岩の斜面、そのはしに若い男が倒れている。
年のころは二十代前半。
黒い短髪に整った顔立ち、長袖の上着にゆったりした長袴(ちょうこ)と革長靴。

とにかく全身黒一色、まったく知らない顔だ。
 おそらくは――侵入者。

  それでもトウカはその時、どうしても気を失っている賊を奈落(ならく)の底へ突き落とす気になれなかった。
男は盗人(ぬすびと)にしてはひどく甘い顔つきだったし、転がった背負い袋を確認したところ、中には竪琴が入っていたのだ。

 ――道に迷った楽人(がくじん)かもしれない。

 さんざ躊躇したすえ、トウカはとうとう男を小屋に引き入れた。
命を救うと決めたのだ。


 薄紅色の煎じ薬を飲ませ、日暮れがせまったころになってようやく、男は目を覚ました。寝台の上で起き上がり、ここはどこだ、と額に片手をあてて問うてくる。

「ここは霧の国、シバの砦だ」

「じゃあ俺は、迷い森をぬけ出られたのか」

「そのようだな」

 最初にことわっておくが、この国で嘘をつくと大変なことになるぞと脅かすと、心得ているとでも言いたげに男は弱々しくうなずいた。

「……ここは俺たち人の住む現世(うつしよ)じゃなく、精霊があまた住む幽世(かくりよ)との境(さかい)なんだろう。霧の国というと……俺は死んだのか」

「まだ死んではいない。おまえ、名は」

「俺はヤトラ。あんたは……?」

「ここの番人だ。スサ渓谷のトウカという」

 すると男はトウカの裸足を見て苦笑した。

「……しかし境界を守っているのが亜麻色の髪した精霊の戦乙女(いくさおとめ)だという噂は、やはり本当だったか……」

 教えてくれトウカ、俺はこれから精霊王の奴隷として一生仕えるのか。艶めく黒檀(こくたん)の瞳に恐れの色はなく、トウカは息を飲む。

「王がお認めになるのは、あくまで我らの役に立つ人間だけだ」

 思わず固い声を出すと、

「なるほどな。しかし俺が有用か無用か、それを見極(みきわ)めて王に取りつぐのは、番人たるトウカのお役目だろう?」

 ならばあんたは、すぐに俺を殺したりはできないはずだよな、とヤトラは肩をすくめた。

「しかし、そのようすじゃ……ひょっとして生きた人間と、こうして問答するのも初めてなんじゃないか。そんなであんたはちゃんと俺を判別できるのか?」

  すべて見通しているような、俯瞰(ふかん)した物言い。トウカはかっとして口を開きかけ、すんでのところで言葉を飲みこんだ。

(ダメだ、こいつのやり口に乗せられては。まだ猶予(ゆうよ)は一月(ひとつき)ある。それまでこの男をよく観察して、決めればいいだけのことだ)

 大きく息を吸うと、片手をさし出した。

「ヤトラとやら。おまえに私の金の指輪をやる。これを右の薬指につけろ。そうすれば今から正式に、おまえは私の監視下に置かれる」

 そう。ここは精霊の治める幽世(かくりよ)で――ヤトラは一介の無力な侵入者で。

 人間と精霊ははるか昔からあいいれない者同士で、それゆえちがう世に住んでいて……、今、境界を犯した男の生殺与奪の権をにぎっているのは、あきらかにトウカのほうなのだから。

  こうしてヤトラとの奇妙な共同生活が始まった。と言っても、トウカは普段と変わりない日課をこなすだけだ。

 日の出と共に起き、簡素な白の貫頭衣(かんとうい)に帯をしめると革のすね当てやら肘当てをつけ、髪を後ろで一つにしてから小屋の前で一通り体術の鍛錬をする。

 掃除をすませ、午前中は崖の西側を見回り、途中の泉で水をくむ。
小屋に戻り昼飯を済ませ、午後は東側を見回る。
日暮れとともに食事をし、星を観たあと寝床に入る。

 晩に夜泣き鳥が鳴いた翌日には、街道ぞいに生えた大木の根方(ねかた)に食料や衣料が届いた。
だから荷車で荷物を引き取りにいき、同時に調達したい物を書いたかきつけを大木のうろに入れ、戻る――。

 

その2へ続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/tanpen2-2

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