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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

キャラ指定の小説を書いてみた『船上のスピカ』4(石油・天然ガス開発のお仕事)

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はじめましての方、こんにちは。ゆきうさぎと申します。ここのところ完全自作短編小説を記事にしてます。今日はキャラ指定の小説創作その4です。
読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪

ちなみにゆきうさぎ、10代のころから創作を始めまして、途中ブランクありましたが、もう10年以上は小説を書いてます。
懸賞小説にもときどき応募したり。予選に入ったり。そんなレベル。

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女の直感ってやつか? すげぇな、おい。

俺はあやうくそう口に出しそうになった。

本心なんて話せるか。

このままお茶を濁して逃げ切りたかった。

でも綾はもう、俺を見抜いている気がした。

自慢じゃないが、外面の俺はけっこう評判がいい。

スポーツは全般得意だし、高校時代は交換留学でカナダのトロントにいたから英語は本場仕込み。
ロシア語も少々なら話せる。

将棋はアマチュアだが級を持っているし、仕事柄、計算や分析も速い。

だけどそんな俺じゃなく、綾にはなぜか見えている。

ケンカ弱くていつまでもうじうじ殻に閉じこもってる、子供のころからまったく成長していない俺が。

言いようのない居心地の悪さを肌に感じながらも、なんとか話題をそらし、うわの空で店を出た。

気づけばでかい堀の横を二人で歩いている。もより駅はこの道の先だ。

すると突然、綾が声を上げた。

「うわ、カイくん見て! 綺麗ー、星出てる!」

 俺ははっとして綾の指さす夜空を見上げた。

 ――北斗七星の隣に輝く、春の大三角。

そのうち一際光る星がある。スピカだ。

  あの青く真珠色にまたたく星を、初めてそれと知って見上げたのは中一の春。

そしてその時、俺の隣にいたのは――。

 心臓がどくんと鳴った。

 ――なあ、正兄(まさにい)。俺いつか、あの星みたくキラキラしたい。普通の大人なんかじゃなくてさ、なりたい自分になるんだ、絶対。

 耳慣れた声と笑顔が瞬時に心のうちに蘇る。

やめろ、と口走りそうになり、慌てて口をつぐんだ。くそ、逃げたって無駄だ、俺は阿呆か。ぎゅうっと拳を握りしめる。

 本当はずっと後悔しているくせに。どんなに自分をごまかしても苦しいだけだろ? ちゃんと向き合え、そしてきっちり受け入れろ。そうしなくちゃ先へは進めない。

(悪りぃな、木下)

 おまえにはなんの関係もねえけど、ちょっとつき合ってくれよ。

 意を決して足を止める。

「木下。さっきの排水官が詰まった話だけど」

「――は?」

「俺の弟は昔から、すっげえ空が好きで、部屋中その手の本で溢れてたんだ」

 綾はいぶかしげに俺の顔をのぞきこんだ。

「大学も航空学科に入ってて、就職は絶対、それ関係のところがいいって言いはって。ジェットエンジンとかロケットを開発してる会社に受かってさ」

「へええ。すごいね」

「弟も俺と同じで、登山が趣味なんだが、一緒に山へ登っても、俺はいつも地面を見てるのに、あいつはいつも空ばかり見ててな」

 俺は口をつぐんだ。綾は澄んだ目をして話の続きを待っている。

「じつは……、この間の掘削作業中、親から電話が入ったんだ」

 長く息を吐いた。

「その弟が北アルプスで冬山登山中、仲間かばって滑落したって。入院したって言われて俺、泡食ってあいつの携帯に電話した」

 そしたら本人が出てさ、と俺は笑った。

「たしかに頭は打ったけど、このとおりしっかりしてるし、まあ左腕を折っただけだって。すげー元気な声、してたんだ」

 その時は。

 それがたった一日半で、容態が急変した。あっという間に意識が混濁して、危篤状態になって――。

「俺、すっかり安心してた。狙ったところに鋼管(ケーシングパイプ)が入って、このまま生産成功するかもって、ワクワクしてた。けどその時敏也は、もう話せる状態じゃなくなってたんだ」

 この仕事は肉親の死に目には会えないって言われてるらしいけど、本当にそうだって思ったよ、と力なく呟く。

 船に乗ってたんじゃ、どんなにじたばたしたって家には戻れない。陸に上がった時にはもう、敏也は――。

「あいつ、がんばったんだ。俺が帰ってくるの、たぶん待ってたと思う。でも俺、間に合わなくてさ……息を引き取ったのは、船から降りる少し前だったって」

「そう……」

「敏也はいつだって、空を見上げてた。小さい頃から、兄貴の俺なんかよりずっと大きなモノ、広いモノを追いかけてたんだ」

 だけどまさか二十五で、本物の星になっちまうなんて。まだ早すぎだろ、と俺は冗談めかして笑おうとし、失敗した。

「カイくん……」

 綾はしばし押し黙ったあと、そういう事情だったか、と独りごちた。

「話しづらいこと、私なんかに打ち明けてくれて、どうもありがとう」


その5に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/tanpen5-5

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