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楽しく暮らそう。ゆきうさぎの創作雑記

キャラ指定の小説を書いてみた『船上のスピカ』5(石油・天然ガス開発のお仕事)

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はじめましての方、こんにちは。ゆきうさぎと申します。ここのところ完全自作短編小説を記事にしてます。今日はキャラ指定の小説創作その5です。
読者のみなさま、ひきつづき、物語をお楽しみ下さい♪

ちなみにゆきうさぎ、10代のころから創作を始めまして、途中ブランクありましたが、もう10年以上は小説を書いてます。
懸賞小説にもときどき応募したり。予選に入ったり。そんなレベル。

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 「いや……まあ、うん」

 俺はなんと返したらいいのかわからず、綾の真剣な顔つきを眺める。

つーか、どうしてこいつ、ありがとうとか言うんだよ。

どっちかと言えば、聞いてもらった俺のほうが礼を言う立場だろ、こういう場合。

「でもいくら他の仕事に逃げても、自分が辛くなるだけだよ? って、私に言われなくても……わかってるんだよね」

「ああ」

 わかってる。それでも、どうしようもないんだ。一番やりたかったメタハイの担当になれたってのに、次にまた船上に立てば、俺はいやでも絶対敏也のことを思い出す。

今度こそ試験を成功させなきゃならないのに、皆が一丸となっている時に、俺だけが――。

 すると綾が唐突に顔を上げた。

「じゃ、今度また排水官が詰まったらさ。カイくんも弟さん見習って空を見上げてみたら」

「……」

「そしたらきっと、弟さんが今なにを考えているかとか、どう言うかとか、想像つくんじゃない。だって二人は同じ山に登るくらい、仲良し兄弟だったんだから」

 弟さんが空にあこがれてたみたいに、カイくんだってメタハイの開発やるの、ずっと夢だったんでしょ、と綾は言った。

「今は掘削船(ドリルシップ)に乗るの、辛いかもしれないけど。よく考えてみて」

「……なにを」

「船は、オイルマンの敵じゃない、味方だよ」

 俺は不覚にも脳天を打ち抜かれたような気がして、息ができなかった。

(こいつ、やっぱ只者じゃねえ)

 何度も綾の言葉を噛みしめてみる。――そうだ。たしかにそうだ。あの船は俺の……みんなの希望だ。

それに敏也なら絶対に、この程度の岩山登りで弱音なんか吐かない。

一度決めたら絶対に諦めないやつだから、飄々(ひょうひょう)とした顔でかならず最後まで登りきる。

「東京の空って、あんまり暗くならないよね」

「あ、ああ」

「けど星、船から見たらすごいんじゃない?」

 俺はぼんやりして綾の顔を見た。

その瞬間、あの船上から身を乗り出して夜空に見入る敏也の姿が……たしかに見えた気がしたのだ。

「ねえカイくん。私だって、ううん、きっと誰だって、後悔なんかしたくない。だけど消したいくらい嫌な思い出や、できることならもう一度やり直したい過去なんて、どんな人でも一つ二つはあるんじゃないかな。もしそれがまったくないって言うなら――そんなのは本当の人生じゃないと思う」

 だから今は、どんなに苦しくてもさ、と綾は微笑んだ。

「いつか壁は乗り越えられる、想いは実現できるって信じなきゃ。本気で、必死に足掻(あが)いてる自分だけは――疑っちゃダメなんだよ」

(……すっげーな、木下)

 ずずごごご、勢いよく排水管の開通する音がする。せきとめられていたぶんの想いが、時間が、流れ出していく。

 敏也が死んだあの日以来、ずっと胸の奥に乾いた干潟ができていた。

そこに潮が満ち、肚(はら)の底に力が戻ってくる。

 ――ずっと渇望していた、一歩前に踏み出すための力が。

 綾と駅で別れて一人電車に乗り、光瞬く都心の夜景を眺めながら、俺はじつに久しぶりに深く息を吸った。

(くそ、ビールが今頃効いてきやがった)

 空調の整った車内にいると、なぎ倒されるような眠気が襲ってくる。席は空いているが、今座ったらおしまいな気がするから無理矢理立っておく。

 寝不足ここに極まれり。身体も心も、本当にそろそろ限界だ。

 ――でも今夜はやっと眠れそうだな。

 つり革に両手でぶらさがりながら、俺は目立たないように唇をゆがめた。

その6に続く>>http://www.yukiusagi.site/entry/tanpen5-6

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